ヨスガノソラ 第8話「ナオクラキソラ」


これまで無言の抵抗を示し続けていた穹が、ついにキレた。
奈緒がトボトボと家を出ていき、穹が台所に走って行って、「さぁ、悠はどっちを選ぶ?」と突きつけられる。そうそう、こういうのが観たかったのよ。カレーを捨てて鍋を投げつけるのも、これまでを見ていれば「まぁ当然だよね」という感じだし。ものすごい修羅場なのに、妙なカタルシスがある。
とはいえ、悠は依然として「流され続けているだけ」という印象が強くて、「どちらを選ぶか?」に対して葛藤することもない(まぁ、あの瞬間、台所に向かっていったところに深層心理を見出したくもなるわけだが…)。悠は「あの時の繰り返しになってしまった」と悔いるわけだが、なぜ繰り返しになってしまったのか、深く考えてくれない。その辺りを考えずに、二人の仲を穹に認めてもらおうだなんて、あまりにもむごいんじゃあないか。


穹の必死の抵抗もむなしく、依然としてイチャイチャし続ける悠と奈緒を見て、唖然とし、歯を食いしばって、ドンッと足を鳴らす。このシーンが個人的にはすごく好き。
勢い良く襖を閉めるモーションや、奈緒を追い出した後、穹の走り、奈緒を投げつけるモーションなどがあったにも拘わらず、全体としては穹の「閉鎖的な動き」という印象が強かった。とりわけ第一話、およびオープニング、メキメキと開く足の指や、軽快な足音、水没してなびく髪などの「開放的な動き」に対置されるかのように織り込まれた、Aパート冒頭、モニョモニョと動く足の指、悠・亮平・奈緒を遠目に見て立ち尽くし、水道の水を被るシーン、そして足を鳴らしたときの「ドンッ」という鈍い音。
穹の感情の昂ぶりと共に、自閉していく穹の心理が見えてくる。


締めの「あつい…」というセリフとともに、アイスの棒、扇風機の風といった、第3話と共通するガジェットが目を引いた。これほどの感情の昂ぶりの後に扇風機の風・穹の呟きを見ると、何気ない描写だった第3話よりも具体的な意味が浮かんでくる。行き場のない怒り、感情のほとぼりが「あつい…」だったのだ。悠が一葉といちゃついていたあのとき、穹はどんな気持ちでアイスを食べていたのか。並行する第3話の描写に対して遡及的に「裏の心理」が解き明かされる。
分岐構造、という一風変わったシリーズ構成は、こういった点においては功を奏しているといえる。


普通に見ていると当然ながら穹に肩入れしたくなってしまうが、「三角関係」を成立させるために織り込まれた「奈緒の表情」が非常に巧い。穹に追い出された後、「悠が来る以前の表情」=無表情に奈緒が戻る。とりわけ、家を出る際に見せる繊細な無表情、ああいうのを見てしまうと、奈緒が「嫌な女」にはもう見えない。奈緒奈緒で辛いんだよと。悠には見せない、亮平にだけ見せるツンケンした表情も良い。奈緒は、亮平には気を抜いて接することが出来るのか。
関連して奈緒のPOVの入れ方もなかなか際立っている。悠の後ろから当然のようにフレームインしてくる穹を見てしまう衝撃。奈緒の表情が挟まる2つ目の校庭のシーンはともかく、1つ目、何気ないフレームインに感情を込めることが出来るのは、さすがヨスガノソラだなぁと思った。