『ラブライブ!』最終話「μ'sミュージックスタート!」について――「音」という起点

ラブライブ!』最終話は「μ'sミュージックスタート!」というサブタイトルで、このセリフが最後に合唱され、改めてスタートを切るμ'sを予感させて締めくくられる。綺麗な締めくくりだが、これがサブタイトルに設定されている意味を考えると、それはつまり「音」が起点であるということだ。ラストの「予感」を確かなものにするために、穂乃香たちは「音」を起点とする運動を積み上げていく。それをこれから見ていきたい。


アバンは、映像的な主題としては「空白」だ。下校時の絵里の右側、ハンバーガーショップで目立つ空席、音楽室の扉の向こう(加えて、Aパートのことりの部屋も)。絵里・希や真姫は元々居た場所に帰り、にこたちは新しくグループを立ち上げようとするが、その中に感じる物足りなさが「空白」として映像に現れる。本来なら穂乃香も、むしろ帰るべき場所までも喧嘩別れで失ってしまっている穂乃香こそ、そうした「空白」を強く感じるはずだ。しかし穂乃香の「空白」は後ろからサポートしていたクラスメートたちで埋められる。全てを棚上げしたまま、海未でもことりでもないクラスメートたちと帰宅し、ゲーセンに立ち寄る。そんな状況に疑問を投げるのが、「弓の音」である。
二つの異なる場所を「音」で繋ぐのはよくある手法だが、今回強調されているのは同時性ではなく二つの場所の断絶である。また、弓の軌道が穂乃香たちに対して横断的であることにも注目したい。一人また一人と“ステージ”を降りていくなか、一人“壇上”に残った海未は弓を引き続ける。しかしそれは穂乃香を掠めることなく空を通り抜ける。こうして、「音」という主題は断絶として、“ひっかかることなく”導入される。


「音」が“ひっかかり”をおぼえるのは、クラスメートたちと行ったゲーセンのダンスゲームコーナーである。6話では穂乃香たちが訪れたゲーセンにて、「音」が穂乃香の眼前に出現する。ダンスミュージックが、穂乃香の練習風景――「運動」の記憶を呼び起こす。そしてダンス後の評価画面、トリプルAの評価が999位という順位を、真姫が入れてくれた一票を思い起こさせるが、これは視覚的な連想だ。この「音」→「運動」→「視覚」という道筋が、その繰り返しが、これまでの穂乃香たちの力学であり、そしてこれからも継続すべき力学だ。
クラスメートたちと別れ、穂乃香は両側から押し寄せる「空白」を実感する。自分の立ち止まった足を見下ろし、モニターに映るアライズという「光景」を見て、今度こそと、「起点」を探して上手に向かい踏み出し、しかしすぐに立ち止まる。改めて実感する「空白」。それを押し流すように踏み出されるのが、花陽の「運動」である。穂乃香はその「起源」を問い、にこの「宣言」を聞く。後の絵里や海未の場合においてもそうだが、回想などの形式ではなく「語って聞かされる」ということが何より重要だ。
絵里の差し出した手を受けて、穂乃香は小さな「運動」を起こす。パソコンを開き、仕舞っていた衣装を取り出して着る。頬を両手で叩く。この運動は像を結ぶことはない。しかしひとつの「ビジョン」を作り上げる。


さて、上手下手の原則をちょっと拡大解釈して言えば、“最”上手に配されるのは全ての決断を“済ませてしまった”ことりだ。Aパートのことりの部屋の場面はことりを上手に配されているし、例えば11話などで見られた2ショット内の「傾斜」も、左奥から右手前だったものが右奥から左手前と、逆転した格好で登場している。Aパート最後の画面分割は、下手に焦がれることりと上手を志向する穂乃香を、“イメージとして”(視覚的に)接合したものだ。つまりこれが、「運動」の先に想定される「ビジョン」であり、この「ビジョン」に向かって、「転回の運動」がはじまる。
「転回の運動」の先駆けとなるのが、穂乃香がパソコンを立ち上げた際の、右回りに弧を描くカメラワークだ。この右回りは、飛行機を見上げることりの視線の右回りに引き継がれ、そして講堂に向かう海未の右回りに引き継がれて一周している。最後だけ実際的な運動を果たした海未は、その分の角度をつけて穂乃香と対峙する。
この傾斜した対峙は、言うまでもなく3話の再演だ(あわせて、今回の絵里との対面が水平位置であることにも注意されたい)。3話と今回で、絵里と海未が立っている位置は、実際には大した差はないだろう。しかしあくまで直線が意識されていた3話に対し、今回は切り返しの中に「横の広さ」を見せるショットがある(穂乃香が「ごめんなさい」と頭を下げるところ)。この「広さ」はなんだろうか?それは、満員の観客のために予約されている席であり、一人壇上に残った海未が再び来るであろうメンバーのために予約してある「ポジション」であり(ライブパートの海未の位置を参照)、そして「転回」のために予約されている軌道である(そういうわけで、今までの「空白」とは意味が異なる)。
海未が穂乃香のところまで降りてきて(実際はこれで「一周」が完成)、歌が口ずさまれ(今度こそ二場面を繋ぐための「音」)、穂乃香の「運動」が開始される。ことりの腕をつかむ場面は12話の逆転構図で、穂乃香が左回りに回りこみ、策定された「光景」はここに完成する。しかし「転回」した彼女たちは左回りに運動を続け、講堂の控え室に滑りこむ。続く「光景」はもちろん、3話と同じ軌道を辿ってアップショットからPOVへと回転するカメラの映す、今度こそは疑いもなく「満員」の客席の、ライトの輝きだ。