ヨスガノソラ 第10話 「トリノソラネハ」


長かった…。ようやく、悠の内面が描かれる段になったか。すごく面白いよ。
ヒロインの抱えている問題や、ヒロインとの過去を基点としていた前三篇と異なり、穹編は悠の視点・悠の願望が基点となる。悠の見る夢は回想に留まらず、夢の中の穹は大きくなって距離を詰めキスをしてくる。悠は邪念を振り払うかのように奈緒とくっつこうとする。しかし穹は不敵に自分を誘惑してくる。
Aパートでは、穹が悠を見下ろす構図(幾度か反復される)に象徴されるように、悠が気持ちを落ち着け奈緒との未来へと進もうとするのを、穹がさらに悠の心をかき乱す、という調子で進んでいく。穹が無防備にゼロ距離へと詰めてくるのに対して、穹の嘘とも本気とも取れない態度に対しては(悠の視点からの)心理的な距離が大きく空いている。それに対しBパートは、すふま越しの会話で、穹の本心の表情がこぼれ落ちる場面に明らかなように、物理的な距離が離れているからこそ、穹の心理が垣間見えてくる、という対比がある。


奈緒との「手」のやりとりに見られる2人の距離感も面白い。アバンは第8話のAパートなわけだが、第8話のアバン、固く手を繋いで歩いている2人のショットが削られている分、奈緒が「手を離す」動作が強調されることになる。そしてこれ以降、デパートの手のすれ違いに見られるように、2人が再び手を繋ぐことはない。
奈緒とのデートから帰宅した悠は、部屋で一人泣いている穹を見つける。泣いている穹を抱きしめる悠、という、ここでまたAパートのゼロ距離の主題へと戻るわけだが、Aパートの嘘の応酬の帰結として、穹の「泣き」が、果たして本心の表情だったかは知り得ない。二人はともに夢をみるわけだが、悠の夢は本心が現れたものだったのに対して、穹の言う夢は「語り」によるものであり、自覚している不安だ。この非対称性が面白い。
そして、10話の着地点として用意されている覗き見の場面が素晴らしい。かつて自分と奈緒とのセックスを覗き見していた穹の気持ちを、悠は身を以て知ることになる。

ハルがそっちを取るって言うなら諦める

ふすま越しの会話の際に穹が言ったセリフ。
穹はずっとこういった態度をとっていたわけだが、このセリフを第10話まで取っておくのが格好いい。10話の嘘の応酬は印象的だったが(というかこの嘘の応酬を指してこのサブタイ「鳥の空音」なのかなと思ったけど)、第5話などに嘘をつく場面があるように、穹は悠の嘘を知りつつも、反抗しようとはしなかった。悠は今まで穹のそういった態度を察することもなく、穹の本心を思い量ろうとはしなかった。その罪を、今回の覗き見の場面で知ることになる。