ヨスガノソラ 第9話「ハルカナオモイ」


うーん、瑛編がものすごく良かったのに比べると、正直なところ、奈緒編はそれ単独ではちょっと落ちるか。
1話→7話→8話→9話と見ていったときに、あの第1話のキスが、穹は悠のことを「家族として」必要としていた、という風にすり替えられてしまうと思うと、さすがに腑に落ちない。穹編があるから総体としてはあのキスが核になっているのかもしれないが、奈緒編においても、穹が二人のセックスに過剰に嫌悪を示したのはあのキスがあったからじゃないのか。その辺りの期待を最期の最期で裏切ってしまう奈緒ルートは、穹の言うとおり悠の見た夢だとでも思わない限りは、どうしても納得しがたい。
しかしながら、穹が今回奈緒と悠を阻む「障壁」に徹することになった都合は理解できる。一葉編、瑛編と、二人の仲を直接的に阻むものは何一つ無かったのに対して、今回はじめて、二人が恋愛することそれ自体が罪、という側面が登場している。悠はその罪を自覚することはないが、Aパート終盤、穹の失踪を奈緒に話す際に見せるあの表情に、「後ろめたさ」のようなものが滲んでいるのである。悠は自分の行動の何が罪なのかまでは理解していないが、穹の失踪が自分のせいであることは感じ取っている。
揉めに揉めた割に最後はあっさりと解決してしまうのも良い。雷がバス停に直撃するという大仰な事件の割には、冷静に見てみるとちょっと小屋が燃えているだけだし、ちょっと中に入って忘れ物を取ってくることくらい、造作も無いのかもしれない。
悠の危機、そして穹の危機と2度に渡って兄妹の危機を救った奈緒とは対照的に、悠は今回あまりに無力に見えたが、一葉編でも瑛編でも悠はとくになにかを為したわけでもなく、無力であった。前の二編で悠はとくに自分の無力さを自覚する必要はなかったが、今回その事実を突きつけられることになった。しかるに、穹編ではさらに大きな「障壁」が待ち受けていることになり、奈緒編で悠が感じ取った「罪」はもっと明示的な形で突きつけられるはずである。無力な悠はその「障壁」に立ち向かえるのか、と心配になるが、奈緒の機転があっさりとした解決を導いたように、兄妹の恋愛につきまとう背徳感(と、両親の問題も効いてくると思うのだが)もそういった機転で乗り越えられるものなのかもしれない。そういった予兆を奈緒編で漂わせていた、という点においては、奈緒編のバランスは素晴らしかった。


佳境、失踪した穹を雨の中探し回り、ちょうどCパートエンディングの場面を実現しているあのバス停へと辿り着く、という流れはなかなか良い。しかし、緊張感を分断するような回想の挟み方はあまり気持ちのいいものではないし、あの回想の反復自体かなりしつこい。実際のところは、あの佳境が気持ちのいいものになっていないという点が、私が奈緒編を喜べない一番の理由。
見ての通り(?)私は瑛が好きなんだけど、悠の居ない間の(それは「適切な距離感」なんだけども)、穹の心の隙間を埋めるような存在という、奈緒編での瑛の立ち位置も面白い。例の回想を意識した構図(左からのフレームインと、直後の右に寄った構図)は頻繁に使われているわけだけど、お祭りの当日それが瑛と穹という組み合わせで使われると、ちょっとこう、感激してしまうなぁ。