話数単位で選ぶ、2012年TVアニメ10選

毎年恒例になっていますが、今年も10本選ばせていただきます。


パパのいうことを聞きなさい! 第4話「ワンダフルライフ」(脚本:成田良美、絵コンテ:高橋丈夫、演出:ふじいたかふみ)
ちはやふる 第20話「くもゐにまがふおきつしらなみ」(脚本:鈴木智、絵コンテ:山内重保、演出:いしづかあつこ)
宇宙兄弟 第1話「弟ヒビトと兄ムッタ」(脚本:上江洲誠、絵コンテ:渡辺歩、演出:釘宮洋)
さんかれあ 第11話「特別…なんかじゃ…ない」(脚本:杉原研二、絵コンテ:名村英敏、演出:久保太郎)
・だから僕は、Hができない。 第1話「運命の赤い糸!?」(脚本:荒川稔久、絵コンテ:高橋丈夫、演出:園田雅裕)
超訳百人一首 うた恋い。 第2話「貞明と綏子 陽成院」(脚本:金春智子、絵コンテ:泉保良輔、演出:三間カケル)
人類は衰退しました 第8話「妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ episode.02」(脚本:熊谷純、絵コンテ・演出:ひいろゆきな
絶園のテンペスト 第3話「できないことは、魔法にもある」(脚本:山口宏、絵コンテ:安藤真裕、演出:高橋健司)
ヨルムンガンド 第15話「Dance with Undershaft phase.2」(脚本:黒田洋介、絵コンテ・演出:元永慶太郎、絵コンテ協力:岩畑剛一)
PSYCHO-PASS 第6話「狂王子の帰還」(脚本:虚淵玄深見真、絵コンテ:金崎貴臣、演出:江島泰男


ルール
・2010年1月1日〜12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・放送順(最速に準拠)に掲載。順位は付けない。


パパのいうことを聞きなさい! 第4話
今年最も繰り返し見たアニメは間違いなく『パパ聞き』の4話なので、順位は付けないとしているがベストを挙げるとしたらコレ。
『パパ聞き』は、主人公の祐太くんが「父親」として成長していくストーリーだが、しかし世間一般的な「父親」に、無理になろうとしなくてもよい。第4話は「パパ」としての最初の一日を描いた話数で、祐太が、三姉妹が、飛行機事故で亡くなった両親(姉夫婦)という空白を埋めようとする。長いレシートや壁の落書きなど、「空白を埋めるもの」が繰り返し登場する。
序盤の朝の一幕では、確かに祐太くんは「不十分な父親」だった。美羽とひなに適用される横の構図は、父親の典型像を切り出した構図だ。それが、玄関前で祐太くんを送り出す場面になって、ふとイマジナリーラインを越え、空の斜め向きの視線が導入される。二次元的な構図に立体感が導入され、祐太くんにとっての「パパ」像が立ち上がる瞬間である。


ちはやふる 第20話
第20話で起こった事件というのは、例えば『咲』などに見られるような「イメージエフェクト」が持ち込まれたことだった。『ちはやふる』では、『咲』などと比較すると競技の実態に即した描写がされていたが、千早の「感じの良さ」、そして反応速度から来るそれは、「体育会系のかるた」だ。これだけなら、実際に千早が陸上をやっていたように、他のスポーツにも共通する要素だろう。しかし、「かるた」だからこそ、音の響きが情景のイメージを喚起するからこそ、かなちゃんの言うところの「文化系のかるた」が成立する。
かなちゃんの「富士山」など(「イメージエフェクト」の萌芽)、これまでかなちゃんたちを通じて垣間見てきた「イメージ」が、第20話で「技術」として誕生する。そしてその「技術」を磨いた先に、クイーンの「糸」や周防名人の「感じの良さ(情景イメージの共有)」がある。第20話は、千早がそれらに近づくための布石であり、同時に水の底に沈む太一に課題を残す。新の指が水を弾く瞬間が、鮮やかだった。


さんかれあ 第11話
礼弥の父親・団一郎は行き過ぎた愛情表現を示す父親だったが、対する千紘もゾンビにしか興味を持てない倒錯した性癖を持っていた。団一郎の「写真撮影」に対して千紘の「ビデオ撮影」があり、二人の立場には類似点が見いだせた。なら、団一郎ではなく千紘が選ばれる理由はあるのか。この問題を争って、二人は第11話で対決する。
通り一遍の「普通」を大上段に語る千紘に対して、下手から団一郎が反撃し、二人の対決は「異常性」の衝突に移行する。天井の写真に対して窓に”映像”が浮かび、千紘は「ハーフゾンビ」になって戦うが(右回りの回転が「異常性」の象徴)、イマジナリーラインを超え団一郎が上手を取ったところで、おそらく千紘に勝機はなかった。しかしその太刀を、礼弥が弾く。
結局のところ、千紘の優位性は「礼弥がいた」ということに尽きる。団一郎の回想中、右回り軌道から外れていった礼弥の軌道の先に、自分が居たというだけのことだ。千紘に正当性があるように見えるのは、彼が団一郎の失敗を踏まえているからである。その意味でフェアな戦いではなく、続く12話で「たまたま自分だったこと」の重圧が千紘を悩ませる。千紘が上手を譲り、団一郎を載せた飛行機は遅まきながら、礼弥を追いかけるようにコースアウトしていく。
「ふたつの撮影」という主題の終点として、また「幸福と不幸を分けあう」第12話の布石として、団一郎の愛情の重さと狂気の深さを、自分のものとして受け止めさせる構成が上手かった。