ヨスガノソラ 第3話「ツカズハナレズ」


一葉との関係が急激に変化する回。2人の関係の転換点が3つあって、浜辺でラムネの回し飲みをするシーン、悠が一葉を強引にデートに連れて行くシーン、キスシーンの直前、の3つ。
1つ目のラムネの回し飲みは、ビーチパラソルの茎を手前に映して(このパラソルと背後のキラキラと輝く海、という画のためにイマジナリーラインを越えている)、ちょうど”一線を越える”という意味合いを含む、2人の間接キス。この後の電車の中で2人が夕日を眺めるシーンも合わせて、二人が「いい雰囲気」になり始める。
2つ目。「悠が一葉を追いかける」という立場が逆転して、「悠が一葉の手を引く」という関係に変わる場面。2人の「付かず離れず」の距離感は、悠と一葉が並んで歩くたびに、一葉が悠の前を先行し始める、という形で保たれてきたが、この段になって、悠が積極的に一葉の前を歩こうとする。そして3つ目の「キスシーンの直前」で、再び一葉が悠を先行する形に戻る。
3つ目。キスシーンに差し掛かるまで、前回の登校シーン(正の向き・右から左)と対比される形で、「横の構図」の際に負の向きの運動、という形式が貫かれてきた。デートシーン明けではそこから一転して、二人の歩みを正の向きに捉えるショットが挟まれている。
ちょうど序破急に対応する3つの転換点があって、ラムネのシーンから一葉を意識し始めて、キスまでに至ったのだろう。


一葉が悠を求める背後には、瑛や父親との関係が潜んでいる。父親から褒められたいがためにヴィオラのレッスンをうけていた一葉も、瑛のことで親子の仲がこじれてしまっている今では、レッスンも休みがち。その「逃避先」として悠がいる。みんなと海に行くためにレッスンを休み、悠と一緒に祭りの準備をするためにレッスンに遅刻した。黒色で繋いだ回想シーンが開け、神社の前に再び黒い車を発見したとき、「予定のない」一葉に「予定」ができてしまう、このショットの衝撃は凄まじい。
しかし悠が一葉に惹かれる理由はあまり見えてこない。ヨスガ1〜3話の傾向として、穹や一葉の心情を物語るあのロングショットが悠のために使われることは無く、悠のPOVもほとんど無い(第1話の”妄想”くらい)。悠の心理はマスクで覆われていて、ただ悠の行動だけが客観的に描写されるのみ。そのような形式を採っている理由は分からないけど、次回の「ハルカズハート」までのタメ…なのかな。どうだろう。
だからキスに至ってもなお、悠と一葉はお互いのことを本気で好きだとは、どうしても思えない。影やロングを使って叙情的に描かれた夕焼けの二人のキスシーンは素晴らしいけど、やっぱりその場限りのキスだからこそ美しいんじゃないかという気がする。


「いい雰囲気」の2人を冷ややかな目で見つめていた穹。穹の感情の揺れは、今回はフラットに、「扇風機」の送ってくる風によって表現される。瑛は一葉の帰りを待ち、穹は悠の帰りを待つ。猫を抱えた瑛とぬいぐるみを抱えた穹が駄菓子屋の前で出会って、「待つもの同士」の連帯感が生まれる。2人でアイスを舐める、ほんのりとした雰囲気のシーンが、穹の落とすアイスと、悠と一葉が落とす唾液が繋がれて、2人の熱いキスのシーンとの対比を生む。穹は瑛の真似をして、ぬいぐるみを頭の上に乗せて帰る。穹と瑛の間にあるのは、熱く盛り上がっている悠と一葉とは質の異なる「あたたかさ」。


第3話も非常に面白かったけど、悠の心の中が見えてくる(はずの)第4話次第…という感じがする。いいキスでした。