君に届け 第9話 「新しい友達」


そ〜とめこういちろう氏は3話の演出もされておりますが、今回のを見て、3話にわざと青色とオレンジ色の空を入れたのは、もしかしてそ〜とめ氏の仕業なのかもしれないと思いました。
今回、爽子と風早くんの間に「天の川」が横たわるカットがありました。7話の最後に登場した天の川の反復であるのですが、この「天の川」が持っていたドラマというか、そういうものを無視して織姫と彦星、(下の名前を呼ぶことに対する)距離、という記号だけを抽出して用いるのは、3話の「混色の空」でやったのと同じことでしょう。2話で用いられた「混色の空」が孕むドラマを無視し、風早くんと爽子の存在を示す記号としてだけ用いたのが3話でした。


今回を見る限り、そ〜とめ氏の演出は全体的に抽象的です。普段よりも背景をいじることが多く、特に会話・あるいはモノローグのシークエンスにおいて、本来の背景であるはずの「学校の風景」ではなく、ピンク色や青色を貴重として水玉を散りばめたようなイメージ・ショットを頻繁に用いています(背景の「抽象化」)。またAパート冒頭の、昼休みのサッカー練習のシークエンスにおいて、千鶴と爽子の会話の後ろで、「抽象化されたモブキャラ」がひそひそと会話をしているのは「ささめきこと」を彷彿とさせます。さらに極めつけとしてAパートの最後に挿入されるイメージ・ショットがありますが、この使い方が実に秀逸です。今回はこのイメージ・ショットの分析だけに終始しようと思います。


このイメージ・ショットの構図はシンプルです。画面中央に木があります。木の足元にサッカーボールがあります。画面手前で花が揺れています。サッカーボールはなんなのか、木はなんなのか、花はなんなのかといえば、Aパート序盤の回想シークエンスに答えがあります。爽子の蹴ったボールが「届いた」ことなんてわざわざ回想を挟むだけ蛇足だろうと、このシークエンスだけを見ればそう思うのですが、Aパートの終わりに向けて、「花」「サッカーボール」といった対象がなんの意味を持つのかをリコールしておく必要があるのです。そして爽子の蹴った「サッカーボール」がどこにあるのか、それを明示しておく必要がある―すなわち、このショットは風早くんに向けて蹴ったボールが蹴り返されるのを、爽子が待っている状態、というのが抽象化されているのです。
さらに、手前の「花」が揺れている、というのはもちろん爽子の心のざわめきですが、では、この花を「揺らしている」のは何なのか。このショットに向かって、Aパートでは巧妙に「風」が送り込まれているのです。まず、直前の風早くんが下敷きをうちわ代わりにして仰いでいることから、風早くんが「風」を送っている1人であると気づきますが、実はその少し前に、換気扇を扇風機代わりにして涼んでいる千鶴が描写されていました。この換気扇の出処はどこかと言えば、これは6話(トイレの中で爽子が女子生徒と対決する回)のトイレの中の換気扇を引用しています。この換気扇を通じて「風」を流したのは、爽子についてのあらぬ「噂」の出処は、くるみです。この千鶴のシーン自体は、くるみの送ってくる風を何ということもなく受け流している千鶴、と解釈され、さらにその残り香とでもいうべき「風」が、Aパート最後のショットにまで届いています。爽子の「花」を揺らしている2人目はくるみであります。


このようにAパートはこのイメージ・ショットに集約される作りになっています。さらにBパート以降で、爽子は自分が風早くんに対して抱いている恋心と、くるみへの嫉妬を、少しづつ感じ始めますが、それは風早くんの元にあるサッカーボールがくるみに向けて蹴られるのではないかという不安として捉えられます。
特に「背景の抽象化」における色の持つ意味とかについて、今回の演出はまだピンと来ていませんが、Aパート最後のイメージ・ショットで私は満足かな、と思いました。来週も期待しております。