君に届け 第5話 「決意」


「緑色」の明暗の変化


まず、Aパートですが、大きな枠組みになっているのは、爽子の心境の変化に合わせて「濃い緑色」から「淡い緑色」へと色合いが変化していること。全体の色彩として「暗い色」から「明るい色」へと変化してゆくのですが、特に前回の「緑色の翳り」という主題を引き継いで、濃い緑色に「爽子の落ち込みよう」が反映されています。
Aパートにおける「緑色」は、食事のシーンの後、爽子の学校がエスタブリッシング・ショットとして映されるときの、学校を挟む木々が一番最初だと思います。見た限りでは普段よりも濃い緑色で彩色されているようです。そのあとも全体として暗い色彩が貫かれるのですが、次に「暗い緑色」が出てくるのは、テストが終わって爽子が下校するとき。爽子はずっと「暗い緑色」の中を歩いているのですが、風早くんが待ち構えていて、爽子は風早くんの前で泣き出してしまいます。そのシーンを境に徐々に日がさしてきて、「淡い緑色」へと変化していく。特に、最初に爽子が風早くんに呼び止められるところと、慰められた後で、まったく同じ構図がとられているカットがありますが、二人の位置と色彩の明暗が異なっていて、一目見て色彩の妙とともに二人の間の「壁の解消」が伝わるようになっています。
色が最も淡くなるのは、むしろ夕暮れになってからで、最終的に爽子が真っ白な背景の中を右向きに歩いていくカットで終わります。



涙のイメージ


これも「君に届け」では(「君に届け」に限らず、と言ったほうが的確かもしれないが)頻繁に扱われていますが、特に爽子が派手に泣く回だけに、「涙のイメージショット」というのが手を変え品を変え現れてきます。
まず、Aパートの冒頭について。一番最初のゆっくりと水が滴るカットは、普通に考えれば爽子の涙の象徴のはずなんですけど、その後現実世界に引き戻された爽子は、ご飯粒をポロポロと落としながら食事をしていて、水滴=ご飯粒=涙という関係になってしまう。このような状況は爽子が注意散漫になっている、以上の情報はないはずですが、一番最初のカットがあるので、ご飯粒=涙という意味合いが付与される。けっこう芸が細かいです。
次に爽子が泣くのはテスト中。みんなから距離を置こう…と考えて、でも諦めきれなくて、泣いてしまう。爽子は、千鶴やあやねとのことを思い出して、風早くんのことを思い出して、泣いてしまうんですけれど、最後に風早くんのことに至って泣いてしまうのがポイントで、やっぱり爽子は、風早くんの事が「一番諦めたくない」のですね。たぶん千鶴・あやねと風早くんの間にそういう順序付けは無いけれど、いまこの段階で一番風早くんの事を「失いたくない」と思っている。爽子の回想は、淡い水色に水泡が浮かんでいる図が、フィルターのように重なっているところから始まっていますが、このあと爽子の思考が沈んでいくにつれて、「淡い水色」も底に沈んでいって、大きな塊が沈んでいる濃い青色に変わっていく、それで、水面に水が落ちるイメージ・ショットに変わります。「水のイメージ」は常に「涙のイメージ」に繋がりうるのですが、ここで「青色」に「風早くんのイメージ」という意味が付与されているので、爽子が常に「風早くん」を第一に考えながら考えに沈んでいる様子が浮き出されているといえます。
続いて、テスト中に泣いてしまった爽子から、下校中の爽子に、時間的にはものすごいギャップがありながらも、非常に自然に画面が切り替わっています。2つの異質な画面をつないでいるのは「木漏れ日の光の反射」のカットで、この「光の反射」の様子が爽子の「涙のイメージ」にもつながり、さらには泣いてしまったために目の前がぼやけている様子を具体的に描写する役割も持っています。
最後は、風早くんに会ってからの爽子。爽子が泣きながら噂のことを風早くんに告げるシーンで、カメラが下に行って落ち葉を拾いますが、この落ち葉はやはり爽子の涙のイメージでしょうね。このあと、ひとひらの葉が風に流されていくカットがあって、それ以降爽子も泣きやむので、「涙の表現」もここで終わりです。



主観の分離・群像劇化


今回の挿話で特異なのは、Aパートは常に爽子の主観で進んでいるものの、Bパートに入ってからは千鶴・あやねの視点で進行していること。「君に届け」は風早くんと爽子を中心としながらも次第に「群像劇化」していくのですが、その時の色彩の規範となるような表現がこの回で少し見られました。
まずAパートにおいて予告されているのは、風早くんが千鶴とあやねの話を出した時に、カメラがロングに変わって、手前にオレンジ色の花が入ってくるんですね。「オレンジ色」というのは、これまではもちろん「爽子」のイメージ、ただそれだけでしたが、ここでは千鶴とあやねの話をしているので、この花は「千鶴・あやねのイメージ」であると考えるのが自然です。Bパートで特に目を引いたのは、家の前で座り込んでいる千鶴のところに、龍くんが走ってくるところ。背景の空は「オレンジ色の雲」に「青色の空」という、2話、3話で「風早くんと爽子」を表現するために用いられたセットが、そのまま流用されています。特にこの背景の持つ意味は拡張されて、今後「男と女」という記号として扱われるようになる、ということが見当がつきます。オレンジ色が女の子の記号、青色が男の子の記号として。
Bパートでは夜中に千鶴とあやねが橋の上に集まってきて、爽子のことを思い返すシーンが、一番の見どころですね。千鶴は爽子のことを思い返して泣いてしまうけれど、その前には水面に映る光が「涙のイメージ」として機能しているカットが入っています。街燈が3本立っているのが、千鶴・あやね・爽子の3人を象徴していて、特にこの街燈の光が徐々にぼんやりとした光になっていくのが、前半の色彩の明暗に関連して、3人の「融和」を象徴しているのかなと。また、爽子も自分の部屋から夜空を眺めますが、3人が「同じ空を眺めている」というのが、陳腐ながらも良い友情の演出です。



おまけ

なんとなく「ああ、あのオープニングを作った人なんだなあ」と思ったのが、Aパートの風早くんの「ダメ。絶対ダメ。絶対、もうだめ!」のところで、爽子の後ろに七色の虹が出現するところです。



何か自分でも読みにくいかな…とちょっと思ったので書き方を少し変えてみました。今回はこれらが「1日の間」に行われている、というのが面白くて、それぞれの時間帯によって使える表現というのは絞られいるにもかかわらず、上手くかみ合った表現がされていました。今回で噂の騒動は解決すると思ったけど、原作を読み直したら確かにここで切れていました。解決編は次週ですね。