「君に届け」のオープニングについて - 極彩色と回転のイメージ


今週、中村章子さんがコンテ・演出をやるので、ちょっとOP映像についてまとめ。
中村章子さんってどういう人かっていうと、作画@wikiには

とにかく女の子を描くのが大好きで、蟲師23話では女の子のみ作監修正を行い、他は共同作監西位輝実にまかせたというエピソードを持つ。


と書かれるような方で、まあ私も詳しく知っているわけではないのですが、「君に届け」を見るとここに書かれていることは的を射ているのかなと。OPでは、ひたすら爽子が出てくる。眠っている爽子から始まって、一番最後に風早くんが出てくるまで、とにかく爽子しか出てこない。
OPがサビに入るまでは、「眠っている爽子が起きるまで」を表現しているといえます。一番最初は本を抱えて眠っている爽子から始まって、オレンジ色の空が薄い青になって、薄い青の空が濃くなる。爽子はカーテンを開けて、スカートを履いて、歩き出す。サビに入ってからはひたすら爽子は歩いている。爽子はひたすら、「風早くん」に向かって歩いていっています。
君に届け」という主題は爽子から風早くんに向かってだけではなく、風早くんから爽子へ「届かせたい思い」もあるのです。それがこのオープニングでは、後者をバッサリと切り落として、爽子だけに着目して、爽子だけの視点から「君に届け」という主題にアプローチしている。この辺りが「女の子を書くのが大好き」って書かれるような人なのかなぁと思いました。



■色彩について

私はこのブログで、「君に届け」は優れた色彩表現が魅力だという話を、ずっとしてきました。第1話および第4話では、「幸福のイメージ」の緑色と青色、第2話と第3話では、「風早くんのカラー=青色」「爽子のカラー=赤色」が表現の主体になっています。詳細は過去のエントリを。


君に届け 第1話 プロローグ
「君に届け」 第2話 「席替え」 - キャラクターの「色分け」、そして「主観の融合」
君に届け 第3話 「放課後」 - 「文字を書く行為」のエロス、「主観表現」から「客観表現」へ
君に届け 第4話 「噂」 - 「緑色」で表現する幸せのイメージと、幸せの翳り
(3話は色彩表現が主体であったかというと、そうでもない。むしろエロスが凄かった。3話では、正直なところ、2話で「主観の融合」という大掛かりな表現を仕掛けたのに、それがたった1話にして記号として消費されてしまって、若干の寂しさを覚えましたが。)


オープニングの最大の特徴は、「色彩の多様性」。1話〜4話を見てわかるとおり、「特定の色」になんらかの意味を持たせるために、絞った色遣いをしている。それに対してOPはとにかくカラフル。本編のパルテル調の色彩に対して極彩色であるというだけでなく、「色の多様性」を象徴する「七色の虹」まで登場する。この色彩はなにを表現しているのか。これは、私が思うに、随所にみられる「回転のイメージ」と合わせて「時間の移り変わり」を表現しているのではないかと。
サビに入ってから、爽子がひたすら歩いていますが、その背後で空の色が青色からオレンジ色に移り変わっています。ここで「一日」という時間の単位が表現されていて、その次からは「一年」という単位が表現されています。緑色の中で若葉が増えていくカットが「春・夏」に相当していて、落ち葉が落ちていく様子を眺める爽子、雪の上を歩いて滑って転ぶ爽子と、「秋」「冬」のイメージカットが入っています。
このように、「君に届け」OPにおいて、時間の遷移は色彩の遷移として認識されます。「移り変わる時間=色彩」の中を爽子は目標に向かってずんずんと進んでいっている。そして最終的に爽子が風早くんと二人きりで教室にいるシーンに到達します。


また、先週のエントリでも書きましたが、この「極彩色」は第1話と第2話の間の色彩のギャップを埋める役割も担っているのかもしれません。第1話では緑色主体の幸福のイメージ、第2話では赤色と青色の融合、というまったく違う方針をとっていて、それで違和感を感じずに済むのは、あらゆる色が詰め込まれたオープニングが両者を包括しているからなのではないかと。



■回転のイメージ

「色彩」とともに「時間の遷移」を表現しているのが、「回転のイメージ」です。「回転のイメージ」が顕著に表れているのは、サビに入る手前の、爽子が上着のファスナーを上げている横で赤い花が回転しているところ、続くカーテンやスカートのカットにおける手の動き、その下で回転しているマーガレットの花、虹のたなびき、同心円の広がり、そして風早くんが出てくるシーンの導入として、星や水玉や、四つ葉のクローバーの回転、などなど。これらの「回転」は時間のイメージに直結して、回転する空の色、回転する四季、等々のイメージを形成しています。
「回転のイメージ」は時間と関連するだけでなく、爽子の「直進」の動きに対する「回転」という意味もあります。爽子が四季を超えて直進していく様子はそのまま風早くんへのまっすぐな気持ちに通じますが、その動きをよりシャープに表現するために、特にサビの手前までに回転のイメージが詰め込まれているとも言えます。



1分強のOPの話だけで意外とけっこう書くことがありましたが、この話は今週の第5話の枕だと思っていただければ良いです。本編の色彩とはまた違う「極彩色」をOPで用いた、中村章子さんによる第5話はどうなるのか。原作でも一番泣ける挿話だったんで、非常に楽しみです。