君に届け 第6話 「友達」


閉塞感と親密感のイメージとしての「女子トイレ」


今回の挿話では我々は基本的に、女子トイレの中と、その外側に閉じ込められています。トイレの中に爽子と、爽子に絡んでいる女子生徒たちがいて、外側に取り巻きがいる。爽子とあやね・千鶴との「和解」に至るまで、回想を除いてはトイレとトイレ前からカメラが離れることはありません。たびたび申し上げているとおり、「君に届け」では「緑色」や「青色」や「赤色」での色彩表現が中心で、そのために学校という閉鎖的な環境にとらわれずに、むしろ開放的な外の世界でドラマが展開されることが多かったのです。ところが今回では、学校というだけでなく、「トイレの中」という、非常に閉塞的な空間だけでドラマが展開されている。トイレの中の閉塞感、というのは寒色系を中心とした色彩にも反映されていますが、これまでもたびたび出てきた「トイレ」というのは、主に生徒たちが爽子について様々な噂話をする場所で(そしてその噂を爽子が聞いてしまったり)、蛇口から落ちる水滴がしばしば「涙のイメージ」を想起させることも相まって、爽子の「ネガティヴ」な側面を総括している空間なのです。噂話というのは今回問題になっている噂に限定されませんが、ある意味で「噂」のホットスポットになっているこのトイレで、爽子が噂話をしている女子生徒たちを屈服させるという点に、一つのカタルシスがあります。それに加えて、爽子がまずトイレの個室から出て、千鶴とあやねに連れられてトイレを出る一連の過程に、爽子が自分の閉塞的な側面を克服するというドラマを見いだすことができます。
「閉塞感」のイメージとして用いられてきたトイレは、しかしBパートになってからは少し様相を変えます。爽子に絡んできた女子生徒たちは退治されて去っていき、「キャスト総入れ替え」で爽子と千鶴・あやねがトイレに残される。多数の女子生徒たちが「圧迫感」を与えていた空間は、3人だけになった後では「親密感」を想起させる装置になっています。そのイメージを持たせるために、一回だけ真上からの俯瞰カットを入れているのが巧い。Bパートのトイレは入射する光の角度から白っぽい色彩になって、より親密になった3人に「光のイメージ」を与えています。
さらに、全て事が済んだあとに、開放感を与える「青空のもとでピンクの花がたくさん咲いているカット」が挿入されるのも巧いです。


トイレの外側


今回トイレの内部から見たら、つまり爽子の視点から見たら上記のようなドラマが見られるのですが、トイレの外側からの「野次馬」の視点になると、また様相が変わります。「閉塞感」の象徴だったトイレは急に「小劇場」と化し、さらには露骨に手鏡を使って何とか中の様子を覗こうとしている生徒たちの様子までもが描写されます。このカットは爽子が絡まれている最中にあるので、爽子に感情移入しているところを急に客観の視点に引き戻されてしまい相当なストレスを与えかねないと思うのですが、そうまでして「劇場」をアピールしなければならないほど、「野次馬」の中に風早くんが紛れていることが重要です。前回は爽子を立ち直らせるための主役だった風早くんは、今回「野次馬」の一人であることを甘んじて受け入れている。トイレの中に駆け込んで爽子を救い出したい衝動を抑えて、劇場の観客の一人として応援し、爽子がトイレから出てきた後に、「良かったね」と一言声をかけるだけの立場であることを受け入れている。純粋に爽子のことを考えての行動が、非常に恰好よく見えてしまう。
また、何度か映される「非常口」の「緑色」のランプは、今回は風早くんを示す記号なのでしょう。


目の大きさ


これはあまり自信がないのですが、私の気のせいでなければ、今回、爽子の眼がいつもより大きく描かれていたと思います。爽子の眼を意識的に大きくすることで、いつも俯いてしゃべる爽子が「相手の目を見て意見をぶつける」様子を強調したかったのかなと。これも気のせいでなければ、風早くんの眼も大きめに描かれていると思います。風早くんの場合は「眼をそらさずに耐える」という様子を強調しているのでしょう。