君に届け 第1話 「プロローグ」


君に届け」はかなり面白かった。絞った色遣いで爽子の心情を浮き出すのが特に上手かったので、今回は彩色にに注目してまとめてみます。


(Aパートの、サブタイトルの文字が出るまでのあたりをアバンと呼ぶことにします)。アバンでは爽子のいる高校で、トイレの背景画を映しながら、女子高生たちの「爽子の噂」が囁かれるところから始まります。爽子が蛇口の栓を閉める様子、「貞子」と呼ばれて気持ち悪がられていること、自分の姿を見ると逃げ出す女子高生、そしてそのことにショックを受ける爽子を漫画風にデフォルメした絵で描かれます。このアバンに、爽子の堅実な性格とか、時折漫画風に崩れる絵とか、Bambooさんの背景とか、作品の基礎的な雰囲気に集約されていて、よくまとまったアバンであると思います。アバンでは、トイレの壁とか、廊下とかは、基本的に寒色系の彩色がされていますて、アバンの最後で、深い「緑の」黒板の上に「爽子」の名前が書かれたカットにつながります。
Bambooさんはtrue tearsにおいて背景美術を担当した方で、最近またtrue tearsを1話から見返していたので、アバンが始まったところで相当な既視感がありましたが、その上にリアリスティックなキャラクターではなく、マンガ風にデフォルメされたキャラクターが立っているのが新鮮です。


Aパート明けからは、いきなりアバンとは違う明るい彩色でスタートします。爽子の住む街の俯瞰から、爽子が登校していく風景に至るまで。ここの数カットでは爽子の住む街並みとアバンで導入されている爽子の通う学校、というのが対比されていて、爽子の通う学校に漂う暗い雰囲気、というのが際立っています。次は風早くんに噂を立ち聞きされて、風早くんが爽子に話しかけてくるところ。ここも、イメージショットの中で「明るい緑色・青色」の彩色が使われていて、爽子と風早くんの会話のシーンも、イメージショットを織り込みつつ、明るい色遣いをしています。もちろん、物語は爽子の主観で進んでいくので、色の明暗は爽子の主観から見ての明暗に対応します。特に「明るい緑色・青色」が「爽やかさ=カタルシス」の特徴づけとして1話の中で何度か使われています。また、「花壇のマーガレットの花」「(回想のなかでの)桜の花」もしきりに「幸福のイメージ」として使われています。


風早くんとの会話から、青空から白くフェードアウトしていったあと、画面は一転、夕暮れ時の「オレンジ色」に支配された彩色に変わります。この中で登場する人物は爽子と他2名の女子高生ですが、2人の髪の色もオレンジ系の色で彩色がされていて、この中ではむしろ爽子の「黒色の髪」のほうが孤立します。この時間帯に、人物をこの3人に絞って描いたことで、爽子の「孤立」が浮き彫りにされているのです。


Bパートに入って、肝試しのシーンがありますが、今度は夜です。爽子はただ一人の「お化け役」で状況的にも「孤立」しているのですが、彩色にはどのように反映されているのでしょうか。昼間は明るい色遣いをしていた「学校の外」も、もちろん夜は暗い青色・緑色を中心に彩色されていて、つまりこれは「学校の中」で用いられていた彩色と同じバランスであり、「学校の延長」であることが暗に意識されています。その上で生徒たちは色とりどりの服装をしており、生徒たちのほうが背景から浮いているのです。その中で爽子は一人、真っ白な衣装を身にまとっていて、背景に溶け込んでいます。このようにして爽子と他の生徒たちの分離が実現されているのです。
ここに風早くんがやってきて、つまり爽子のもとに「爽やかさ」が持ち込まれるわけですが、これも彩色として反映されています。ここシーンのセンスの良さにはかなり感動したのですが、爽子が千鶴とあやねがペットボトルを渡して、風早くんに「打ち解けてんじゃん」と言われたところから、草の上に止まったホタルが出てきて、「(明るい)緑色の光」を放つんですよね。そのあと、たくさんの「緑色の光」が瞬きだして、ホタルたちが空に向かって浮かび上がっていき、空に浮かぶ月の位置までカメラが昇って、そのまま翌日の青い空につながります。


ここまで進んできて、爽子がクラスメイトから明らかに虐げられているにもかかわらず、「ポジティブシンキング」でいることに相当な違和感を抱かざるを得ないんですよね。「蛍の光」の「ささやかな緑色」のシーンは美しいけれども、この違和感を抱いたままなので、やはり「真のカタルシス」とはなりえないわけです。ここで、風早くんがクラスメイト達に、罰ゲームとして一週間爽子と付き合え、と言われて、風早くんは「それが罰ゲームなんて失礼すぎる」と憤慨します。それを受けて、教室の深い緑を中心とした色遣いは、暗い青色を基調とした色遣いに変貌して、爽子の思考というのが浮き出されています。その様子は爽子のモノローグでトレースすることができますが、すぐに「誤解です」の一言ともに緑色の色遣いに戻ります。暗く翳るマーガレットの花のカットが間に入りながら、爽子は、昨日風早くんと一緒にいたことについては「誤解」を孕んでいるけれども、自分の風早くんに対する気持ちに「誤解」はない、と言いきって、教室から出ていきます。
その次の「流れ星」のカットが爽子の「涙のイメージ」になっていて、次の日登校していく爽子が途中で泣いてしまうカットを予言しています。爽子が歩いて行く先に風早くんが待ち受けていて、クラスメイトからの「お詫びのしるし」が手渡され、「俺、期待しちゃってもいいんだよね」と風早くんが言い、そしてこれらがすべて「明るい緑色」の中で行われることで、完全なカタルシスが得られるということになります。


あと、爽子のモノローグ。このモノローグは爽子に語り部的な役割を与えているというのもあるのですが、どちらかといえば、爽子の本来的にお喋りな性格、話したいけれども上手く話せないというもどかしさを表現することに重きが置かれているのではないでしょうか。今回は大体こんなところで。