『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』について

ネタバレ全開なので、気にする人はご注意を。


最初にTV版の第24話『最後のシ者』を思い出したい。最後の使徒、カヲルはシンジの正面から見て右側から現れ、一緒に寝る場面で位置が逆転し、打ち解けたのち、左側に消えていく。『Q』ではこの間に有り得るはずだった、二人が親密になる過程=回転のムーヴメントが描かれる。


回転のムーヴメントを軸とし、本作の主要なイメージは球形の収縮と膨張である。シンジが目を覚ましミサトたちの前に顔を出したときの、「中心」に注がれる厳しい視線、これが「収縮」であり、ミサトたちがシンジの元を離れ、球形のコックピットに収まった後、そこを起点としてヴンダーの回転運動まで広がりを見せる回転のムーヴメント、これが「膨張」である。基本的に「収縮」に不安定な心理が表れ、「膨張」に調和が表れる。『破』ではビーストモードだの何だのと暴走しまくったエヴァたちを制御してみせるミサトたち「ヴィレ」、その安定した戦いぶりが膨張のイメージで紡がれる。


収縮と膨張はサード(フォース)インパクトの過程であり、「膨張」の調和した振る舞いにはサードインパクトの有り得るべきだった姿を見ることができる。ヴィレを抜けだしたシンジは廃墟同然のネルフ本部でカヲルと、ゲンドウと、そして何人目かも定かでない綾波と再会する。シンジはカヲルと親交を深めていく。ピアノの連弾がはじまり、下手から日が差し、風が吹き、青空のイメージへと、回転のムーヴメントは「膨張」していく。彼らはピアノの連弾を繰り返し、星を眺め、互いに位置を/主導する立場を変えながら親密さを増す。だが、カヲルはシンジに見せる。「膨張」の先にある、サードインパクト後の世界を。


ゆえに、彼らの目標はサードインパクトの「やり直し(=REDO)」である。「膨張」の先、「爆発」(フォースインパクト)の起こらない、調和した世界を目指す。TV版で既に明かされているような絶望の既定路線を辿り収縮していくシンジに与えられる、たったひとつの希望がそれだ。
彼らが地下深く、リリスのもとへと降下していく場面は、「膨張」の前段階の「収縮」だ。ここで2人の位置が『最後のシ者』の終盤と同じ位置になっている。彼らには二本の「聖槍」、カシウスの槍とロンギヌスの槍が必要だったが、リリスに刺さっていたのは(たぶん)ロンギヌスが二本だった。おそらく、『破』でカシウスの槍をシンジくんに贈り、サードインパクトを起こしたことで血塗れてしまったのだろう。「処女膜を破った」(というのはもちろん不適切な言葉なのだが)その罪を「やり直せない」、そう宣告され、ここでカヲルの恋は破れる。しかしシンジは「収縮」を続ける。その結果が「爆発」だ。


左側の見えない壁の向こうで、カヲルは命を落とす。カヲルの魂は左回りの上昇軌道(膨張)、シンジは左回りの下降軌道(収縮)を辿り、2人の運命は逆志向に進んでいく。「やり直し」てなお、2人は引き裂かれた。しかし、カヲルは「やり直せ」なかったが、シンジはまだ「やり直せる」。収縮の果て、いつものようにエントリープラグにうずくまるシンジを、アスカが連れだしていく。もう一度、ゆるやかな膨張がはじまる。




難解だという声も聞くが、カヲルくんの純愛と悲劇を綴った、良い映画だった。『最後のシ者』を見た後に、待ち続けたカヲルの14年を想像しながら見るとより楽しめるのではないかと思う。

様々な謎が散りばめられているけど、とりわけ二本の聖槍に絡むことが重要だと思うので、その辺はいろんな人の解釈を聞いてみたい。とりあえず上のような解釈も付けたけど、まだ全然足りない気がする。