『ましろ色シンフォニー』第7話までとウシロシンジさんについて

ましろ色シンフォニー、毎週楽しく見てます。どういう人脈かは存じ上げないが、『神のみぞ知るセカイ』やってた方々がコンテを切る回と、ウシロシンジさんとその一門(?)がコンテを切るNOMADグロス回が交互にあるようで、面白いのは断然NOMADグロス回(望月智充さんの回も良かったけど)。


NOMAD回のお二人(ウシロシンジさん、伊能樹さん)は奥行きを使ってキャラを縦に配置したがる傾向がある気がする。
最初に第7話を見てみる。Aパートの頭だが、部室の手前から奥に(カットを割りながら)カメラが徐々に近づいていき、瓜生くんと紗凪のやりとりを挟んで、カメラが後退しつつ1ショットの間に愛理・アンジェ・桜乃がポンポンポンと顔を出す。こう聞くと「そういうものなのか」って感じだと思うけど、実際に映像を見てみると、これは結構ビックリする。
愛理・アンジェ・桜乃が口々に瓜生くんを褒め称える……というか、ちょっと意地の張り合いをしているような場面で、縦の配置にヒロインの力関係が反映されているのである。「縦の配置」は第7話全体を通して意識されていると思う。例えば、Bパート序盤でみう先輩を筆頭にヒロインズがおせっかいを焼いて部室からゾロゾロと出てくる場面は、「奥行き」を時間的に捉えれば「縦の配置」の演出の亜種と見ることができるだろう。噂の根元を辿る段では出てきた順序と逆に聞きこみをして行くわけで、ちょうどAパート序盤の短いシーケンスが反復されていると言える。ちょっと深読みすると、「本気なほど」あの二人を茶化したくなる、ということかもしれない。
そういう観点で第5話、伊能樹さんのコンテ担当回を見てみる。この回は、Aパート中盤・Aパート後半とラストを見比べてもらえると分かりやすいと思う。具体的にどの場面かというと、最初の場面は瓜生くんと愛理が廊下でイチャイチャしているのを後ろからアンジェが見ている場面、二番目の場面は教室で二人がイチャイチャしているのを後ろでヒロイン4人が見ている場面、そして最後の場面はもちろんアンジェの「告白」の場面である。第5話は要するに、メインヒロインのポジションに居た愛理さんがいかにして転落したか、という話なのだが、大まかに「前景」と「後景」が設定されておりその入れ替わりを演じた回である。第5話と比べてみると、第7話の配置というのは第5話の「前景」「後景」が多層化したもの、と捉えることができるだろう。付け加えると、第5話の段階ではまだ「匂わす」程度でしかないが、第5話では瓜生くんのさらに「前景」にみう先輩がいて、実際には三層構造になっている(理事長室で聞き耳を立てた後、目の前をみう先輩が通り過ぎる場面など)。
ショット単位で見ても手前と奥で別々の芝居をさせる演出は『ましろ色』のNOMAD回では割と多い。第3話のAパート教室の場面なんかにも「縦の配置」の傾向が見られる。比較対照として他の話数はどうかというと、例えば第4話や第6話では円形のグループショットを結構使っている。NOMAD回ではこのタイプのグループショットは、無いわけではないが非常に限られているように思う。


第3話と第7話、ウシロシンジさんのコンテ担当回はただでさえ驚きでいっぱいだが、そんな中でも挿話中に1度だけ、腰を抜かしそうになるほど驚く瞬間がある。その瞬間というのは、作中に設定されたいくつかのレイヤーが統合される瞬間でもある。ウシロシンジさんは、挿話中で最も核心的な瞬間に、最大の打撃を用意して待ち構えている。
第3話のBパート、二人きりの教室で、帰り支度をする愛理に声を掛けるか掛けまいかと瓜生くんが思案している最中に、不意に右端のドアが開いて桜乃が入ってくる。これには腰を抜かした。このシークエンスだけ見れば、画面左奥に居る愛理へと意識を誘導されているから……というのが驚きの理由である。しかしもう少し全体を俯瞰してみると、愛理と瓜生くんの二人きりの夕暮れの教室という空間に、他のヒロインたちと一緒にいる昼間の教室での運動規則を持ち出されたからでもある。右端のドアというのは、ここまで愛理が内側から開けて出ていくか、みう先輩や桜乃が瓜生くんを訪ねて入ってくるか、であった。第3話の前半では、概して画面右から何かがやってくる…というのは昼間の空間に特有の規則である。
これを踏まえて第7話をもう一度見てみる。前述のとおり、第7話の時点では各キャラクターのなすレイヤーが完全に細分化された、言うなれば各々の「キャラが立った」状況で、物語的には転調を迎える。第6話に見られるような、ある種の均衡を保った「三角形」の構図が消失する。例えばみう先輩と紗凪と瓜生くんが3人で出かける際にも、常に直線的な構図が選択される。さらに言うと、三角形の構図は「幻影」として立ち現れるようになる。Aパートの公園、空席のブランコにココアを置いた画が印象的だったが、あの空席に瓜生くんが収まって、紗凪と瓜生くん、そしてそれを見る者の「三角形」をなすことが理想なのだ。しかしそれは実現しない。その構図が実現しようとするとき、「報われない」と確信している紗凪自身がその構図から逃げてしまう。Aパートのラストのように(「カメラ」が第3の点)。こうして「三角形」が崩れて「直線」へと置き換わる。
愛理はこの挿話中でやや特殊なポジションにいる。他のヒロインたちが二人を茶化しに走っているなか、愛理はつねに「三角形」の「第3の点」であろうとしている。Bパート、紗凪と瓜生くんが人のいない公園に居る場面は、おそらく「三角形」が形成される契機ですらない。むしろ紗凪がなけなしの勇気を振り絞るほどに、二人の関係は望まれない形を成そうとする(ちなみに第7話は瓜生くんの左手に誰が来るかが重要だったと思う)。そして直線の構図が登場したとき、不意に愛理の瞳のクロース・ショットがインサートされる。勇気を振り絞った紗凪を見届けるために、誰もいなかったはずの階段の上に愛理が現れる。
これが第7話の「不意打ち」。このクロース・ショットの前後で明確にカットの切り替えのスピードを変えている(アバンラストや3人の買い物の場面の速さに合わせたのかな?)。幸福の三角形という幻影と、直線の構図が見せる現実の間を、一瞬だけでも繋ぐためのクロース・ショットだ。


<参考>
ろくさん(id:n_euler666)がウシロシンジさんについてまとまったエントリを書かれている。
http://d.hatena.ne.jp/n_euler666/20110703/1309687650
ましろ色シンフォニー』でも第3話だけ教室の机が異様に大きい。