君に届け 第4話 「噂」 - 「緑色」で表現する幸せのイメージと、幸せの翳り


今回は鏑木さんのコンテ回で、1話からの流れで「緑色」が「幸せの象徴」として用いられています。さらには「緑色」に「影を落とす」ことで、「爽子の幸せの翳り」が表現されています。2話、3話と用いられた「爽子のカラー」「風早くんのカラー」は用いられずに、今回は第1話のような「緑色」「青色」による色彩演出が展開されています。


Aパートでまず爽子が緑色のお風呂に入るシーンがあります。緑色なのはバスタブが緑だからそう見えるのか、入浴剤を使っているのか分かりませんが、爽子が「緑色」に包まれた中で学校の友達のことを思い返しています。緑色は幸せを表す記号で、お風呂の泡がフェードアウトしていって青空につながる、この「青空」もまた「幸せの象徴」でありました。2話、3話では風早くんを象徴する記号であったのですが、鏑木さんの回ではどうやら「幸せのイメージ」としての役割が強いようです。その次のカットで、生徒たちが噂話をしているのですが、画面には植木鉢から生えている植物が映っている。どことなく斜めに傾いて生えている「緑色」が、爽子の「幸せの翳り」を象徴しているといえます。直前の爽子のお風呂のシーンと上手く対比されていて、爽子だけがなにも知らずに幸せに浸っている、という構図がここで提示されています。このあとしばらく、爽子は緑色や青色とともに描かれて、なにも知らないまま進んでいくのですが、終盤になって爽子も「幸せの翳り」を明確に感じることになる。その一連の様子が「緑色」「青色」で表現されているのが、第4話の特徴であろうと思います。
噂話をしている生徒たちは、千鶴とあやねにとっては敵ではないのですが、彼女たちにとっては噂の大元が爽子であるという「噂」が気がかりです。2人はトイレで話し合って、爽子の噂はきっと嘘だろうと考えるものの、本当だったらどうしようと、一抹の不安を感じている。その様子が、水面から水滴が浮き上がっていく(蒸発していく?)カットに表れています。このカットももちろん、爽子の居ないところでの「幸せの翳り」につながるのですが、水たまりの水が千鶴とあやねの「信頼」を表していて、そこから少しずつ「水=信頼」が蒸発してく、二人の「信頼の翳り」を表現していると見るのが良いのではないかと思います。水の底にカメラが沈んでいって画面が暗くなり、回想に繋がるシーンも、露骨に2人の不安が表れていると思います。


不安に思った千鶴とあやねは、爽子に鎌をかけてみることにしますが、結果はシロで、結局爽子はまだ「幸せの翳り」を感じることはありません。千鶴にノートを渡す爽子の手が震えているところとか、渡した後に指をもじもじしながら話すところとかがいちいち可愛かったのですが、その後、校庭のベンチで昼休みに千鶴とあやねとご飯を食べる爽子が描かれていて、芝生の緑色や木々の緑色が爽子を包んでいます。
千鶴とあやねの不安もそれで解消されたかに思えたのですが、二人は爽子が別の友達に「(千鶴とあやねは)友達じゃないよ」と言っているのを聞いてしまいます。爽子はもちろん二人が思っているような意味でその言葉を発したわけではなかったのですが、二人は爽子の話の途中でピンに連れ去られて最後まで聞くことができず、不安を掻き立てられます。二人は爽子に「私らはあんたのことが好きだよ。あんたは、私らのこと、好き?」と聞いてみて、爽子が「好きって言うより…」と言い淀んでるのをみて、「分かった。もう…分かった」と話を打ち切って、爽子に背中を向けて席に座ります。ここは色を抜いているカットが多くて、「色彩の翳り=爽子の幸せの翳り」が始まっている。教室の俯瞰のカットでは、背中を見せている千鶴・あやねと、二人の背中の前で呆然としている爽子という構図が明確にされています。
次のトイレのシーンで、爽子は「噂」を聞いてしまい、もっと明確に「幸せの翳り」を感じることになります。爽子は自分が千鶴とあやねの周りにいることで迷惑がかかっていると思い込んでしまう。2人が落ち込んでいた原因は噂そのものではないのですが、爽子はそのように勘違いしてしまい、風早くんにも迷惑がかかると思って、学校の帰り道に手を振ってきた風早くんの横を、俯いて通り過ぎるシーンがあります。「夕暮れ」も2話と3話では爽子のカラーと風早くんのカラーが混ざり合う、二人の主観が混合するための装置だったのですが、4話では1話の演出方法に立ち戻って、寂しさを演出する装置になっています。


次の日、爽子は千鶴やあやね、風早くんと距離を置いて、さらに噂を流している人たちの誤解を解こうと、学校中を走り回ります。教室で泣きそうな爽子から、手前の風早くんにピントが切り替わるカットがあって(これは一人で泣いている爽子を風早くんが「見ていた」ということを表したカットです)、そこから風早くんが動き出すのですが、いまの段階で爽子と風早くんの間にある「壁」が明確に描かれています。風早くんは爽子を追いかけて行って、爽子は風早くんから逃げようとする。背を向けている爽子と背中を見つめている風早くんの様子を横から捉えたカットがあるのですが、ちょうど二人の間に柱が描かれて、画面の中で二人を分離しています。(割とよく使われる手法です。適当に思い出したのを挙げると、喰霊の最終話とか、エンドレスエイトの15話とか)。爽子は風早くんを振り切って、走って逃げていく。爽子は校庭の芝生の上に走っていくのですが、導入のカットが「木の陰で覆われた芝生」からはじまり、その後フェンス越しに爽子を見るカット、つまり「緑色に網掛けがされたカット」に続いて、「幸せの翳り」が最も明確に表れている芝生のシーンで締めくくられます。


こうしてみると鏑木さんと長沼さんで、同じ作品の中でずいぶんと作風を変えるものだとも思うのですが、不思議と統一感が取れているように思えるのは、色彩による演出という一貫した手法によるもの以上に、中村章子さんのカラフルなオープニングがうまく作用しているのではないかと思います(そのうちオープニングについても何か書きます)。次回はこの「噂話」の解決編ですが、コンテ・演出に中村章子さんが登場します。どうなるんでしょう、楽しみですね。