「君に届け」 第2話 「席替え」 - キャラクターの「色分け」、そして「主観の融合」


2話では、キャラクターに「色分け」がなされて、爽子のイメージに「赤系の色」、風早くんのイメージに「青系の色」が用いられ、それに伴って「夕暮れ時」の風景が多用されています。第1話では「青色」と「緑色」が基調になっていて、「夕暮れ時」のオレンジ色は、爽子を浮き上がらせるために用いられていました(赤色も、制服のリボンの色として用いられていましたが、それは置いておくことにします)。それに対して2話は「赤色」と「青色」を基調としていて、むしろ赤色は「爽子のイメージ」として用いられているという点が大きく異なります。


まずAパート明けでは「赤色の傘」を持った爽子が、捨て犬に傘をかけてあげるシーンがあります。この時点でずいぶん派手な色彩が「君に届け」の世界に持ち込まれたなあ、と感じていました。この「赤色」というのは爽子の自己主張の現れ…なのかとも思えますが、1話の段階ではむしろ千鶴とあやねのカラーとして使われていたので、友達と融和し始めている爽子、という様子の現れと見るほうが良いかもしれません。とにかくこの時点で、爽子のカラーは「赤」だと主張されています。
ずぶ濡れになって登校した爽子は、千鶴に上が白で下が「赤」のジャージを貸してもらい、風早くんに「水色」のタオルを借りて頭に巻きます。爽子がトイレでジャージに着替えたところからは、ジャージの赤、タオルの水色、赤い羽根募金のポスターの赤色、ジャージと非常ベルの赤色、そしてタオルの水色…と、爽子と風早くんのイメージが溢れていて、最終的に風早くんが「青色のジャージ」に着替えるシーンに繋がります。そして風早くんは、先日の爽子とのことを思い出して顔を「赤らめる」。この回想シーンと、風早くんのモノローグを見て分かる通り、2話では「風早くんの主観」が積極的に取り入れられています。第一話では一番最後のシーンを除いて「風早くんのモノローグ」は出てこないのですが、第2話では基本的に爽子の主観で進むものの、部分的に「風早くんの主観」に置き換わるシーンがあります。


爽子が「お礼」にと机の上に置いて行った「紙パックのジュース」、それについた水滴に「爽子の涙のイメージ」を見た風早くんは、爽子を追いかけて声をかけます。この段階で、風早くんの「青いジャージ」越しに「赤いジャージ」の爽子を見るカット、「赤いジャージ」の爽子と「青いジャージ」の風早くんが向かい合っているカット、と続けて見せられて、爽子と風早くんの「色分け」は明確になるのですが、「青色」と「赤色」という「色分け」は普通は反対色=対立のイメージとして用いられるべきであるのです。融和に向かっている風早くんと爽子を敢えて「色分け」する必要はどこにもないのでは、という疑問が生じますが、その疑問について、この後の2人が河原の捨て犬に会いに行くシーンが答えを与えています。時刻は夕暮れ時に差し掛かっていて、全体的に赤みを帯びた色彩になっていますが、しかし空はまだ青くて、雲は赤めの彩色になっている。このシーンはまさに、反対色という扱いのされることが多い「赤色(オレンジ色)」「青色」の「融和」が実現されていて、爽子は、風早くんは、お互いの「個性」を保ったままに「融和」することができると、そのように主張されているのです。また別の見方をすれば、青色は「風早くんの主観で見た空」であり、オレンジ色は「爽子の主観で見た空」と見ることができます。つまり、爽子のモノローグが始まって空が徐々に完全なオレンジ色になり、完全に爽子の主観に切り替わるシーンまでは、二人の主観が同時に取り扱われ、さらには二人の主観を「融合させた」視点で物語を進行させるという、離れ業が実現されているのです。この河原のシーンはそうとう見応えがあります。


Bパートは爽子が手作りクッキーを風早くん(と千鶴とあやね)に渡すかどうかと、もじもじと鞄のファスナーをいじっている、可愛らしいシーンから始まります。クッキーの包みにも「ピンクのリボン」というささやかな自己主張がされていますが、席替えが始まる前の数学の時間では、過剰な赤色と青色の登場は避けられる傾向になります(生徒の持っているノートが赤色か青色のどちらかに統一されてはいますが、これについては明確な意図を感じないので、とりあえず置いておくことにします)。他クラスの生徒が入ってきて爽子の席に座ろうとすると、その席は爽子だからやめようよ、という話になって、それを聞いた爽子は意を決してその二人に話しかけるも、自分がうつむいてしゃべっている間に、二人はどこかに行ってしまっている…というきつめのエピソード。落ち込んで自分の席に座る爽子を、カメラは遠巻きに捉えて、その小ささで爽子の落胆が表現されているのですが、基本的に「君に届け」は誰かの主観でないシーンは存在しなくて、このシーンは勿論、その直後に顔のアップが映るあやねの主観になっています。あと、回想シーンで実際以上に赤っぽく色づけされているのは、「二人の主観」で進んでいたシーンから、「風早くんの主観」を引いた、「爽子だけの主観」による風景になっているからです。
そして、チャイムの音とともに「過剰な青色=青空」が映されて、「席替えの時間」になります。クラスメイト達の、爽子の近くになりたくないという思いが画面を支配して、爽子の主観と並行してクラスメイト達の主観が一時的に導入され、それにより爽子とそれ以外の区別が起こり、爽子の孤立というのが表現されています。それで、爽子の引いたくじの番号がわかると、クラスメイト達の心の声はとうとう言葉に変わって、それを全部聞いている爽子が漫画風のキャラで涙を流している様子に切り替わります。窓から見える真っ青な空、というカットが入り、爽子が指定された席に着く間も、窓の外の青が描かれています。そして風早くんが自分の机を持ってズンズンと爽子の隣に近寄って行き、爽子の隣に席を置いて、「やった、黒沼の隣だ」と満面の笑みで言います。そして爽子の周りに、くじを無視してあやねと千鶴が集まってきて、爽子の後ろには龍くんがつけて、爽子の周りが固まる。それを見て爽子は意を決してクッキーを周りの4人に配ります。クッキーは4人に喜んでもらえて、爽子は「私、この席になれて、本当に、嬉しい…」と言う。ここで光が差し込んできて、窓の外から爽子の周りを切り取ったカットで締めるのが美しいです。この枠の中は爽子の小さな「世界」で、このカットもまた逆説的に爽子の主観であるともいえるでしょう。
最後は「青色とオレンジ色」の「爽子と風早くんの主観の融合」が再現されて、風早くんが自転車で先に帰って行ったあと、爽子の主観に戻って、爽子のモノローグで締めくくられます。


1話に続いて2話も相当面白かったです。とりあえず1回目は絶対途中で泣いてしまう。「君に届け」は主観による心情描写を突き詰めているアニメで、同じ恋愛アニメでありながら完全に「客観」の立場から描く「ささめきこと」と対極の手法をとっています。陳腐な言い方になってしまうけれど、やはり盛り上げ方が上手いというか。
あと最後に爽子と風早くんを見つめる女の子が映っていましたね。できればこのまま爽やかなままでいて欲しくて、個人的には三角関係とかになるのはあんまり望んでいませんが…。
来週も期待しています。