宇宙をかける少女 第25話 「黄昏れる神々」


今回のアバンでは、前回の終盤に追加でネルヴァル側の様子を映したカットを入れて再構成したものが、まず提示されます。レオパルドが前回粉砕した「エナジャイズミラー」はカークウッドにエネルギーを送るための装置のようで、カークウッドは危険な状態に陥り、それを受けてネルヴァルはレオパルドを止めるために出撃していったというのが、前回のラストの舞台裏だったようです。「いったい、どっちがいい人で、どっちが悪い人なんだか、分かんなくなってきたです…」というイモちゃんのセリフが、今回の挿話の終盤のほうまで効いてきていますね。そういう風に二極のいずれかという区別は到底出来なくなった状況で、風音さんは今回レオパルドを「悪い人」(というよりは、どっちも悪い人)と断定して秋葉さんに命令する。風音さんのその判断が誤りだと、この時点で示唆されているわけです。


レオパルドは剣を手に入れて以来劇的に強くなって、ネルヴァルが放ってきた氷塊を電撃で粉砕(このシーンは電撃大王に載っている「宇宙かけD」を思い出してしまった)。続いてレオパルドは反物質砲をネルヴァルに向けてぶっ放します。反物質砲を撃つとなるとコロニー内は大混乱で、いつきさんは必死に住民を地下に誘導します。反物質砲が発射されるお馴染みのカットは、傍に秋葉さんが居なくてなんとなく物足りない感じを出していて、レオパルドが秋葉さんに「おまえはもういらない」といった言葉の真意を、ここで表現しています。代わりに空を飛ぶドローンが反物質砲を食らって消滅していきますね。車で走行していた獅子堂姉妹は割と反物質砲の影響をもろに食らって、車が煤まみれに。ネルヴァルは氷塊でガードするけれども、反物質砲はそれを突き破ってカテドラル・ベンディスカに甚大な被害をもたらします。レオパルドはさらに追撃にと、かつてウルが自警団の武器に使おうとして「レオパルドじゃなきゃ動かせない」と言って見捨てた兵器を、ここぞとばかりに出撃させます。
ネルヴァルが反物質砲を食らう様子を見ていた秋葉さんは、中にいるイモちゃんの身を案じて、車から飛び出して一目散にQTアームズに向かいます。秋葉さんは姉たちやほのかさんが止める声を無視してQTアームズで宇宙に出ていき、ほのかさんも「プロト・アルヴァクル」に乗って秋葉さんを追いかけます。いつきさんも住民の誘導の仕事(さっきは避難のために地下に誘導してましたけど、今回はレオパルド脱出のために宇宙船に乗せるための列整理ですね)を放棄して秋葉さんを追いかけます。秋葉さんは多数のレオパルドのドローンと一緒にカテドラルベンディスカに向かいますが、ちょうど目の前にいたドローンが破壊され、その爆炎にまぎれて、アレイダがタキオン・ソードを構えて秋葉さんに突進してきます。そこにいつきさんが間に合って、砲弾をぶつけてタキオン・ソードの矛先をそらし、続いてほのかさんが秋葉さんにカテドラル・ベンディスカの構造図を渡して、秋葉さんをイモちゃんのもとに向かわせます。その間アレイダやアルヴァクルと、いつきさん・ほのかさんが応戦することに。
その背景からボアシップや怪奇課のグラブフィッシュや多数の宇宙船が、レオパルドから飛び立ってきます。中にはさっきいつきさんたちが誘導していた住民が詰まっていて、風音さんやエルさんが先導して「どこか安全な場所」に住民たちを連れて行っているようです。一体どこだろう。


ネルヴァルの「ブレインルーム」にやってきた秋葉さんは、そこでイモちゃんを発見しますが、再会の感動を喜ぶ間もなく、レオパルドのドローンが内部に到達してきて、イモちゃんはネルヴァルに回収されてどこかに行ってしまい、秋葉さんはQTアームズに乗ってイモちゃんの行方を捜索することになります。
レオパルドのドローンが攻撃した天井から、ナミさんが「かりそめの天井」が崩れ落ちるカットへと切り替わります。ここで崩壊しているのははたして同じ場所なのか、違う場所なのか、それは分かりませんが、とにかく今まで馴染んでいた「空」が作りものだった、と気付かされる、わかってはいつつも衝撃を受けずにはいられないカットですね。ナミさんはプリマ・ヴェーラの力でえにぐまを爆破してしまいます。神楽のメモが吹っ飛んでしまって泣きそうになりましたが、まあ神楽が評議会に戻ってきてくれるなら、あのメモの内容はやはり最終話で神楽の口から語られるのが、理想的でしょうね。ナミさんが燃え盛るえにぐまから出てくるときの表情が、凄まじい。今回の挿話では割かし好きなカットです。ナミさんは続いてイグジステンズを召喚しようとしますが、イグジステンズの代わりにイモちゃんを探していた秋葉さんが降ってきます。ナミさんは「姉貴たちを一人ずつぶっ殺してくの。そんで獅子堂家は滅亡」と自分の計画を自慢げに話します。ナミさんは使命を背負った「宇宙をかける少女」の秋葉さんを「ぶっ殺す」シチュエーションを夢見ていたようですが、秋葉さんはナミさんと戦おうとする意志を見せず、ネルヴァルを倒すとか、そんなこと知らないよ、という秋葉さんを見て、ナミさんはなぜ自分でなく秋葉さんが「宇宙をかける少女」に選ばれるのかと苛立ち、秋葉さんに光弾を撃ちます。ナミさんは再びイグジステンズを呼ぶと、イグジステンズたちはほのかさんたちとの戦闘を中止してカテドラル・ベンディスカの中に戻っていき、アレイダもそれに付随して戻っていき、いつきさんとほのかさんがそれを追いかけます。
ナミさんから秋葉さんへの一方的な攻撃は続きます。ナミさんは泣きわめく秋葉さんみたいなのを期待していたんでしょうが、秋葉さんは「早くイモちゃんを見つけて脱出したいの!」「あんたなんかにかまっている場合じゃないの!」と目の前のナミさんのことはまるで無視して、イモちゃんのことだけを考えています。ここだけ見ると、秋葉さんはイモちゃんとナミさんを天秤に掛けるまでもなくイモちゃんのほうが大事、と考えているように見えるけど、まあ実際はそんなことなくて、秋葉さんも頭に血が上っているだけでしょうね。ナミさんが崖からぶら下がっている秋葉さんの手をグリグリと踏みつけているところに、アレイダたちが到着して、ナミさんは今度はアレイダにプリマ・ヴェーラの矛先を向けます。アレイダを撃墜すると、続いてやってきたいつきさん、ほのかさんの機体を撃ち落とします。いままで自分を攻撃してくるナミさんに関心を持っていなかった秋葉さんも、いつきさんたちが攻撃されたのには反応し、「やめて!ナミ!」と喚く秋葉さんを見て、ナミさんはしたり顔になります。ナミさんはさらなる攻撃を繰り出そうとプリマ・ヴェーラを掲げると、プリマ・ヴェーラは光を帯びて巨大化し、矛先に宿っている光弾をいつきさんたちの方に向けます。光弾が発射されようとするその瞬間に、秋葉さんは咄嗟に、黄金銃をナミさんに向かって撃ちます。ナミさんが黄金銃を食うとアンチQTの波が広がって、ほのかさんの肩の刻印を消します。
ここが前半で一番盛り上がるところですね。「黄金銃」というのはレオパルドキャノンのトリガーというだけではなくて、1話や2話でほのかさんが秋葉さんに向けて撃っていたように、「人に向けて撃つ」という機能があったわけです。黄金銃を人に向けて撃つとどうなるか、というのは説明をあえて避けている部分の一つのようですが、どっちみち大した殺傷力はなく、しかしそれでも、ナミさんにダメージを与えたことで、アンチQTの波を引き出せた、というのが具体的にここのシーンで行われていたこと。これで神楽がネルヴァルの洗脳から目覚める、というのは22話で高嶺さんを一度復活させてますから、ここで復活させてもいいんですね。神楽が復活するのが唐突に見えるのは、突き詰めると神楽がネルヴァルに洗脳されるまでの過程が描かれていないからですが、それはもしやるとしても「過去編」的な位置づけでやればよくって、本編に入れる必要はないでしょうね。また、あまり明示的には描かれてないけど、これでイグジステンズたちの洗脳も解けて、秋葉さんに味方するようになった、という見方もできるかもしれない。それよりもほのかさんの肩の刻印が消えた、というのは何を意味しているんでしょうか。
秋葉さんは我に返って、ナミさんの元に駆け寄ると、ナミさんは「自分の妹を本当に撃つなんて、一体どこまであたしを見捨ててんの?」と、なんとも自分のことを棚に上げた言葉を吐きます。ナミさんの頭から、血なのかそうでないのかちょっと判別しづらい、紫色の液体が垂れてきて、ナミさんの顔に模様をつくります。ナミさんは秋葉さんにプリマ・ヴェーラを振りおろそうとすると、イグジステンズがそれを妨害して、あっけにとられるナミさんに、神楽に戻ったアレイダが「無駄よナミ。イグジステンズはもともとその子のもの。宇宙をかける少女のね」と説明します。味方のいなくなったナミさんは、喚き散らしながらプリマ・ヴェーラに乗って飛び去っていきます。ほのかさんが元に戻った神楽と再会を喜んだりして、Bパートに続く。


Bパートは久々に聴くクサンティッペの歌から始まります。時雨さんたちはクサンティッペの修理なんていう不毛なことをやらされているらしく(笑)、またレオパルドと隔絶された場所にいるため、レオパルドの変異には気づいていません。クサンティッペが、ベンケイが近くに漂流してきているのを発見して、「薄汚れた粗大ごみのような」何かが流れてきている、と言います。ベンケイはつつじさんの棺桶に花を添えて、「最後まで報われないやつだったなあ。言っていることは何が何だかさっぱりわからなかったし」と言いながら手を併せて、冥福を祈っています。するとお約束のように(笑)、つつじさんが蓋を蹴りあげて起き上り、「勝手に殺すんじゃないわよ!」と言います。ベンケイはもうつつじさんを失いたくない思いで、もう争いは嫌だ、ここでひっそりと生きよう、と言いかけますが、つつじさんが口をはさんで、「ベンケイ、よく考えてものを言いなさい。私たちがこんな目に遭っているのはなんのせい?レオパルドよ!」と、いつもなら「神」だとか「大宇宙の意思」だとか電波なセリフが続くところ否定して、憎々しい表情で具体的にレオパルドを名指しし、ベンケイとともにレオパルドへの復讐を誓います。まあこのひとたちはここにきてレオパルドの敵にまわったわけではなくて、多分最後までギャグに徹するんでしょうね(笑)。
秋葉さんはイモちゃんを連れていくという目的を、いつきさんたちに説得されて諦めたんでしょうか。風音さんたちが向かっていった避難先に向かっています。そこはブルーバード・モールを遠目に見るような場所にあって、中はなんとも荒れ果てた様子です。まず秋葉さんが風音さんに頬を打たれるカットから始まります。この「パンッ!」という音が注意を引くのに適していて、今までただ俯瞰カットを流していたところから、物語が始まってますよ、という合図を出すような役割を演じていますね。秋葉さんか風音さんに「どこまで身勝手なの!」と叱られ、いつきさんもウルに叱られ、それを見ていつきさんを嘲笑っていたブーミンがニーナに叩かれます。秋葉さんと風音さんは口論になります。まあ、これはどっちもどっちかもしれない…風音さんも自分の命令を押し付けるばかりでなくてもう少し秋葉さんの気持ちをくみ取ってあげるべきだし、秋葉さんも確かに自分のことしか考えていないかもしれない。でも、23話で明確にしたように、秋葉さんはどんな状況でもイモちゃんへの愛を捨ててはいけない、というのが(いつきさん的には、まあたぶん物語的にも)正義で、秋葉さんはそれを貫いているので、やっぱりここは風音さんでなくて秋葉さんの肩を持ちたくなりますね。
秋葉さんが「だいたい何なのよ。宇宙をかける少女って!」と言うと、かつて当事者だった神楽がそれを明確にしてくれます。「イグジステンズのクイーンにして黄金銃を持つ乙女。ブレインコロニーとの戦いに終止符を打つ。それが宇宙をかける少女」。一見今まで考えていたものと違うことを言っているような気がするけど、「黄金銃を持つ」というところに「レオパルドのパートナー」という意味が込められているのか。神楽はまだ賀統たちに偽物だと疑われていますが、「ナミのアンチQTを食らってしらふにもどっちゃった」と明言します。このセリフは、なくても良かったかもしれませんね。結局このセリフがあってもなくても、神楽がまだネルヴァルの仲間なのではないかという緊張感はあって、また最終話まで見た後で、この言葉が本当ならば、25話まで戻ればナミのアンチQTで元に戻ったんだな、と推察できますから。神楽は秋葉さんに向かって「あなたは最後の希望。私は、宇宙をかける少女として、戦いのすべてを終わらせることができなかった。でも、あなたならきっとできる。私の願いを受け継いでくれた、あなたなら」と言います。神楽本人の口から、23話の風音さんの言葉が再現されるんですね。秋葉さんはいつきさんをはじめ周りの人々に励まされて、宇宙をかける少女として働く、という決心をしますが、風音さんからレオパルドを殺せ、と言われ、秋葉さんの決心は揺らぎます。


ネルヴァルとともにどこかに避難していたイモちゃんは、レオパルドの中枢部だという場所にやってきていました。その中心には一つのフルカウルが置かれていて、ここに何が入っているのかが非常に気になりますね。ネルヴァルはここにきて、イモちゃんに自分の信念というものを話します。人間の究極的な理想を実現することが、ネルヴァルの自己実現。快適な空間とやるべきことを与えることで、人間は安定し、満足する。ナミという存在から、私は確証を得た。つまり、ネルヴァルがナミさんを「偽・宇宙をかける少女」に持ってきたのは、決してその働きを期待してのものではなく、ネルヴァルの自己実現のための実験だったのか。そして最初のセリフに戻って、「これでまた、新たな循環を始められる」と言っていたのは、もしかしたらネルヴァルは、フルカウルという形態ではなくもっと生産的な活動をする状態こそが、人間の安定につながる、と気付いたんでしょうか。22話で「骸」という現象があったけれども、ネルヴァルはあれにも頭を悩ませていて、その答えを探していたのかもしれませんね。そうだとすると、ネルヴァルはもう全然悪じゃなくなってしまう。ネルヴァルたちはえにぐまの横を通り過ぎて、ネルヴァルはナミによって破壊されたえにぐまの様子を見て嘆きます。
ナミさんはカテドラル・ベンディスカの外側で「こんなくだらない世界、何もかもぶっ壊してやりたい」と思っていると、同じく破壊を望むレオパルドから声を掛けられます。ナミさんはレオパルドに「宇宙をかける少女・ブラック」と名乗り、レオパルドのパートナーとして招待されます。ここでナミさんが気取ったポーズを決めるのも、なんか良いカットだ。


レオパルドを殺す決心がつきかねる秋葉さんは、「どうすればいいの、イモちゃん…」とイモちゃんのことを思い出し、そしてふと気付きます。イモちゃんに守られてばかりだった自分は、自分にしかできないことをしなければならない。そうしないと、ナミの言うとおり、何もないまんまだ。秋葉さんはそう決心して立ち上がります。こう、かっこいい音楽で盛り上げられてしまうと、ついついそんなもんかなと思ってしまいますが、直後に神楽が秋葉さんを心配しているようなカットが入るんですよね。こうして今までのシーンを直後のワンカットで全部ひっくり返す手法は、今までもたびたび、もっぱらギャグシーンで取られてきていましたね。ここの秋葉さんは、やっぱり無理をしているんです。自分の気持ちというのを置き去りにして決心をしている。イモちゃんがいたら「お嬢様、本当にそれでいいんですか?」くらいのことは言うはずです。まあ、状況証拠しかなくて上で言ったことは推測ですけど、ここの秋葉さんの決心は、どうやら間違った方向を向いた決心のようです。
決心をした秋葉さんを風音さんたちは温かく迎えます。神楽はナミを止めに行くと言い、「私が引っ張りこんじゃった手前、責任もあるしね。それに、止めてあげないと、あの子死ぬから。」と言います。ナミさんもQTの使い過ぎで死んじゃったりするんでしょうか。それ以上話が進まぬうちに、ナミさんから「聞け、愚民ども」という言葉とともに通信が入って、ナミさんの「バーン」の合図とともに、レオパルドが反物質砲を放ち、地球にある獅子堂島を吹き飛ばします。獅子堂島を吹き飛ばした意味は、今のところは推測するしかありませんが、まあ獅子堂の名のつくシンボルを、獅子堂家を滅亡させる前の前座として吹き飛ばした、という感覚でしょうか。最後に、プリンス・オブ・ダークネスの中でレオパルドの心が目覚めるかのようなカットが入って、次週に続きます。


神楽が復活してきてスッキリしない理由は上で説明したけど、例えば神楽は賀統たちと比べて年をとっていなかったり、まだ樋口さんは明らかに神楽に関する情報をいくつか隠していて、それもスッキリしない原因の一つでしょうね。最終話でカタルシスをもたらしてくれることを期待しております。あるいは、いやまさか、これで神楽はまだネルヴァルの仲間、っていうことも、充分ありうるんですがね。最近は引き締まったストーリーが展開されていましたが、いよいよ次回で最終回です。次週も期待。