宇宙をかける少女 第20話 「白銀の追跡」


今回のアバンもデジャヴュ感の強いカットから始まりますね。こうして流れてきたスパイ衛星は獅子堂評議会側…のものではなく、たぶんウーレ人民共栄圏から放たれたものでしょう。これは第2話の最初の方で宇宙を漂っている秋葉さんがカメラに入ってくる時に、同じような角度で入ってきたのでした。その時秋葉さんはフリオさんによって救出されましたが、この衛星はネルヴァル側に破壊されます。ネルヴァルの部下の3人は次々とやってくるスパイ衛星に頭を痛めています。3人が首相官邸のネルヴァルの部屋に入ると、ナミさんが机の上に脚をあげて偉そうにしています。その席に座っているはずのネルヴァルは、「カテドラル・ベンディスカに向かった」と部下の一人が言います。3人は恨みで人を箱詰めにするナミさんに、これはもっと崇高な行為なのだと説くと、ナミさんは大笑いして、「やめてよ。そういう綺麗ごとは」「わかってるって。私のしている仕事は、汚れた仕事だってことくらい」と。ナミさんは何を分かっているのかな。
カークウッドの外部から、無数の氷塊の漂う空間に出て、ネルヴァルのいる「カテドラル・ベンディスカ」に切り替わります。この氷塊はEDの映像にそっくりですが、おそらくネルヴァルの冷凍の力が外部にも及んでいるのでしょうね。ネルヴァルは巨大な機械を見上げて「まもなくだな」とつぶやきます。宇宙空間を漂う小惑星の一つから、再びウーレのスパイ衛星が目を光らせて、アバンは終わり。いつもと違って謎かけのようなアバンだった。


Aパートはまずクサンティッペコロニー内の秋葉さんの様子が映されます。クサンティッペは現在ネルヴァルの指示で秋葉さんを回収してカークウッドに向かっているんでしたね。秋葉さんは箱の中で目を覚まします。ここでの秋葉さんの顔のアップのカットは箱の中の狭さ・閉塞感が出ていて良いですね。イモちゃんはさっきからドンドンと扉を叩いていましたが、まったく反応しない秋葉さんに涙目になっています。秋葉さんは外の様子をモニター越しに確認できるものの、扉も開かず外に声も届かないと知ると、目の前にキーボードが出てきて、秋葉さんはそれをタイプしてイモちゃんに声を伝えます。「イモちゃん」と打とうとして「イメチェン」と打ってしまう秋葉さん。いや、語感は似てるかもしれないが、どうタイプミスしたらそう打てるのかな(笑)。あと、ハコちゃんは時折声を出して喋っていたような気がしますが、それはまああまり気にしないことにしましょう。
レオパルドコロニーではツンデレなレオパルドをはじめ皆が秋葉さんの行方を心配しています。桜さんは能天気に絵を描いていますが、やはりこれは何か意味のある絵らしい。怪奇課一同とほのかさんはレオパルド付近の宙域の探索を終えて帰ってきます。ここでいつきさんがQTアームズから飛び降りるモーションが、さり気ないけどなめらかに動いていて良いですね。1/2倍速で見るといつきさんが着地の時に細かく動いているのがよくわかる。いつきさんたちは何の手がかりもつかめず、秋葉さんはおそらくカークウッドに連れ去られたのであろうということ以上の進展がありません。ニーナに「気の毒だが、今は動きようがない」と言われ、いつきさんは絶望的な顔をします。
レオパルド市街では、役所のような建物に市民が殺到して、暫定政府への苦情が押し寄せ、エリカとリリーが対応に追われています。エルさんはその間仮眠をとっていて、「く、苦情が!苦情が…」とうなされています。エルさんにカークウッド行きの船を要求しにきた時雨さんもこれには呆然としてしまいます。
ほのかさんはレオパルド時計台の正面にあたる屋根の上から、50年ぶりに活気を取り戻した市街を見下ろしています。右手に持った秋葉さんの黄金中を見つめ、麻痺の進んできた左手を見つめて、50年前の風景を回想します。いつきさんがやってきて、秋葉さんを取り戻すために力を貸してほしいと言われると、ほのかさんは返事の途中で倒れてしまいます。ちょっとここのいつきさんのセリフは適当すぎないか。ほのかさんがいつきさんの目の前で倒れるために、いつきさんがここに来る理由付けを適当につけただけなんでしょうけど、秋葉さんたち3人はもういちいちそんなセリフを交わす必要のない関係でしょうに。


過労で倒れたエルさんに代わってレオパルド内を取りまとめている風音さんは、エミリオさんと一緒にレオパルド線に乗ってレオパルド前に向かっています。風音さんは赤いマフラーが似合っていますね。獅子堂家の3人がネルヴァルの手に落ち、しかもネルヴァル側に神楽がいるという状況で、早急に敵と戦える体制を整えないと…という話になり、エミリオさんから「冠、剣、花に関する現状報告です」と3枚のパネルを渡されます。冠は「プロキシマの冠」、花は「QTローズ」で、剣は知らない。冠はレオパルドのエネルギー源で、QTローズは15話で無残に突破された簡易版ではなく、イグジステンズの精神攻撃を防げる強力なものでしょうかね。これがレオパルドの「自己実現の最終段階」にあたり、12話でストップしていた「パーツ集め」が再開されます。このあとの流れをここで簡単に言っておくと、つつじさんに「冠」を取りに行かせ、ほのかさんに「花」を取りに行かせて、風音さんたちは「剣」を取りに行くことになります。それに加えて秋葉さんの捜索をいつきさんと生徒会メンバーに頼んで、風音さんはこれらの問題をこの1話でだいたい解決してしまうわけですね。しかし「冠」だけが危険な場所にあるらしく、「この冠の座標は…」と風音さんが眉をひそめます。あらすじを読むと太陽付近だとか。
ベンケイがレオパルドコロニーを襲撃してきて、コロニーを突然大きな揺れが襲います。再三攻撃を仕掛けてくるベンケイに「またおまえか、ボナパルド」とレオパルドはうんざりします。「貴様のミラーを手に入れなければ、私は前に進めない気がするのだ」とベンケイはもはや意地だけでレオパルドを襲撃してきたよう。う、うーん…これってベンケイをここに引っ張ってこないと話が進まないから適当に台詞言わせただけのような気が沸々とするんですよね。いがみ合う二人の会話に風音さんが「ハイハイ、そこまで」と割って入ってきます。「あなたがボナパルドね」と言うと、ベンケイが「私はベンケイだ」と訂正してきますが、風音さんは「どっちでもいいわ」バッサリと切り捨て、「パートナーの方をお願いできる?ええっと、確か、つみれさん」とさっさと自分の要件を告げます。風音さんもマイペースな人だなあ(笑)。つつじさんは即座に「ぜんぜん違います」と突っ込んできて、カメラを自分の方に向けます。なんでいつも風呂に入っているんでしょう(笑)。風音さんが「あなた方にしかできないミッションがあるの」と言うと、つつじさんは興味を示します。
いつきさんは、病室で横になったほのかさんから、寿命がきていると告げられます。いつきさんは「ちゃんとした病院へ行きましょう」と言いますが、「ちゃんとした病院」なんて今やどこにもないことは二人とも了解しているはず。ほのかさんは諦観していて「どこでもいっしょ、これはもう決まっていること」と返します。いつきさんは頭に血が昇っていて、ネルヴァルに病院が占領されていると気づいたら、「まずネルヴァルを倒しましょう、そしたら治療を受けてください」と安直につなげます。いつきさんの言葉にほのかさんは「うん、そうする」と微笑んで返事をしますが、「ネルヴァルを倒すまでは死ねない」というほのかさんは、裏を返せばネルヴァルを倒したら死んでもいいと思ってしまっているわけなんですよね……。この笑顔が痛々しい。
役所では激務を終えたエリカとリリーが椅子に座って倒れこんでいて、小さな子どもがエリカの帽子をつついています。よくみたら、エリカの帽子は垂直になっても取れないのか(笑)。風音さんとつつじさんはその上の階で面会をしています。つつじさんは毅然とした態度で、「私たちは誰の味方でもない、新しい独立勢力です。依頼には、相応の対価を要求します。」と風音さんにギャラを要求してきます。たった2人で何が新興勢力か、と鼻で笑ってしまいそうなところですが、風音さんはつつじさんの扱い方を知っていて、さらに「攻めのビジネスのつもりなら、次がないという覚悟で、相手からむしり取れるだけむしり取らないと」と言ってつつじさんの要求よりも多大なギャラを約束します。どれくらい増えたかというと、パネルの右上の数字が4000万から4500万に増えていますね。つつじさんは思わず「こんなにいりません!」という言葉が口を衝いて出てしまい、あわてて口を押さえます。つつじさんは平静を保とうとしますが、「成功した場合、さらにこれだけ」とパネルを再び修正して見せると、つつじさんは口を開いて呆然としてしまいます。つつじさんは完全に緊張してどもっていますが、すぐに出発しろと言われ、さらにプロキシマの冠の座標を見せられて、儚げな後ろ姿で建物から去っていきます。風音さんは落ち着き払って「ああいう子は逃げられないの、自分の意地から。まだまだ利用できるわね」と言って紅茶を飲みます。キャラの被っている二人ですけど、つつじさんが一方的に風音さんにやり込められて、二人の差異(単純な能力の差)がはっきりと表現されていました。2人の交渉のシーンは良かったですね。しかしこの二人が会話しているとどっちが喋っているのか分かりづらい(笑)。意外と沢城みゆきさんと田村ゆかりさんの声質は似ているのかな。


冠の問題が片付いて、「次は秋葉の件と…」と他の問題について考えを巡らしているところに、「邪魔するぜ、獅子堂総帥」と時雨さんが役所にやってきて、カークウッドに行く船を貸してほしいと要求します。エミリオさんが「時雨くん。気持ちは分かりますが、今は…」と口を挟むと、何度も同じ言葉を聞かされたからなのか、時雨さんはエミリオさんの言葉を途中で遮って、「学園には、まだおれたちの仲間が捕まったままなんだ!」と声を荒げます。ちょうどそのとき、建物の外から「行かせてください!」といつきさんの声が響きます。その言葉は風音さんに行ったものではなくて、秋葉さんを助けに行きたいとニーナに申し出たものでしたが、風音さんは窓から顔を出して口を挟みます。風音さんは一考して、いつきさんに秋葉さんの捜索を任せ、生徒会メンバーに、秋葉さんの捜索を手伝うことを条件に船を貸すと言って、2つの問題を一度に解決します。秋葉さんの捜索の問題はこれで終わりで、「残るは地球行きの便ね」と、「花」の問題はエルさんに任せようかと考えていたところ、ほのかさんが「フォンは私が迎えに行く」と申し出てきます。いつきさんはほのかさんの体調が気になりますが、ほのかさんが「大丈夫、いつきの病院に行くまでは死なない」と笑みを浮かべて言うと、いつきさんもそれ以上何もいえず、ただ「わかりました」とだけ言います。
風音さんから任務を預かった面々が、レオパルドコロニーを旅立っていきます。ほのかさんの乗った小型のシャトルと、いつきさんと生徒会メンバーの乗った少し大きめのシャトルが、それぞれ別の方向に向かって飛んでいきます。巨大なベンケイコロニーも動き出し、つつじさんは風音さんに用意してもらった豪華なお風呂に浸かりながら、ベンケイに「あなたも悔いがないように、やりたいことは済ませておきなさい」「ハイパージャンプまで15分、人生を無駄にしないことね」と、まるで死を覚悟したかのような言葉を発します。つつじさんは「容易いことです」といった手前、風音さんに示された座標を見ても引くに引けなくなったんでしょうね。3人が動き出したことを受けて風音さんも「剣」を捜しに行きます。「インスマス暗礁。そこであなたの剣を捜す」…インスマス暗礁とはちょっとググったところクトゥルフ神話から引用されているようです。レオパルドは「そもそもメガネ!お前に指図される覚えなどない!」と反抗してみますが、ここに留まればクサンティッペがまたやってくるといわれると、レオパルドは何も言えなくなり、さらに「わかったらさっさと移動を開始する!」と強い口調でレオパルドに命じます。ハイパージャンプを使うと探知されるのでステルスで行くと言い、そのためにつつじさんたちを囮にした、ということも明かします。さっきからずっとお絵かきをしていた桜さんが「あめーじんぐ、かんせーい!」とはしゃぎ、エミリオさんとレオパルドは「はぁ?」という態度ですが、風音さんは喜んで桜さんを褒めます。桜さんのお絵描きが次回どういう風に生かされるんでしょうね。レオパルドがステルスモードになるに際して、たくさんのQTアームズがレオパルドの外部に出動しています。ブーミンもニーナの指示を受けて出動していて「ボロ船に乗ったつもりで安心して!」「それを言うなら泥船でしょ」と、不安しかよぎらないやり取りを繰り広げています(笑)。


舞台がカークウッドに戻って、ナミさんが高笑いをしながら「汚れた仕事」をする様子が映されます。今回一番面白いのはこのへんからですかね。ナミさんはたくさんの人をイグジステンズで取り囲みましたが、その中に機械の目を光らせる者が一人紛れ込んでいますね。ナミさんはこの人たちをみんな箱詰めにして、ネルヴァルへの刺客を招いてしまったのでしょう。
クサンティッペの中にいる秋葉さんに向かって、他の箱からレスが投げられます。「マニュアル読めれ新入りー」「マニュアルの場所知らないと思われる」。秋葉さんが「誰?」と聞き返すと「はこ」「箱」「箱ですが何か?」と次々とレスが流れていきます。これは驚いた。箱たちの間に2ちゃんねるのようなネットワークが形成されていたのか。クサンティッペが「病みつきになるらしいわよ」といった理由も分かったし、ハコちゃんの顔文字も納得がいった。箱というのは「引きこもり」の表現で、さらに「匿名性」の表現なのか。匿名の会話を繰り返すうちに、次第に自分の名前も忘れていく。たくさんの電子音が鳴り響くなかでカメラが引いていきます。
引き上げていったカメラは、今度はカークウッド外部から内部、そして箱人間の倉庫の内部へと潜っていきます。前回もこうして、クサンティッペ内とカークウッド内の箱人間倉庫が対比して描かれていました。ネルヴァルたちが総出で視察をしているさなかに、一体のフルカウルから槍が伸びてきて、ネルヴァルの首筋を貫きます。一つ目の細長い体躯をしたドロイドがフルカウルを破って出てきて、槍のような手をネルヴァルから引き抜くと、ネルヴァルは倒れます。ドロイドは箱の上を走って逃げ出し、ナミさんとアレイダ、高嶺さんがドロイドの追跡を始めます。はじめ一体だったドロイドは3体に分裂し、ナミさんたちは分散して1体ずつ担当をすることになります。アレイダと高嶺さんは鮮やかに敵を仕留めたものの、ナミさんは苦戦。イグジステンズを召喚しますが細い路地に逃げ込まれてしまいます。地を駆けていたドロイドはは変形して空を飛ぶ形状になり、橋の上での追っかけっこの最中に突然ドロイドが地面に墜落し、ナミさんを巻き込んで橋の一部が崩壊します。これがドロイドの意図した攻撃なのかどうかは分かりませんが、ナミさんはがれきに埋もれているドロイドの首をもぎ取って、ネルヴァルの元に持ち帰ります。ここのアクションシーンは素晴らしい出来ですね。あとプリマ・ヴェーラにまたがって飛ぶナミさんが可愛いです。高嶺さんも久々に動いてくれて良かった。「白銀の追跡」はここのシーンのことですよね。
首を刺されたネルヴァルは、別のドロイドに乗り換えて頭脳体との接続も回復し、完全に復活。ナミさんは「見て。やったよ」と、勝手に自滅したドロイドの首を自分が仕留めたかのようにネルヴァルに見せびらかします。このドロイドはウーレから送られてきた刺客、と部下の3人が結論付けます。ナミさんはドロイドの首を取り落として、それを拾おうと手を伸ばすと、ネルヴァルが「触れるな!」と強い声を出します。しかし一歩遅く、ナミさんが触れたとたんにドロイドから槍が伸びてきて、ナミさんの肩口を貫きました。


今回はいつきさんのセリフとかベンケイのセリフとか細部で何点か脚本がおかしいなと思ったものの、最後のアクションシーンには感動しました。今回コンテはだいぶ良かった。ナミさんはまあ次回予告にもいたし死んではいないでしょう。次週も期待。