「宇宙をかける少女」前半の総括


そろそろ冬スタートのアニメが最終回を迎え、4月スタートのアニメが開始される時期になりました。冬アニメは「宇宙をかける少女」が面白すぎて他のアニメを見る気があんまりなくなってしまい、結局最後まで見たのは「WHITE ALBUM」「とらドラ!」「明日のよいち!」「CLANNAD AFTER STORY」と「宇宙をかける少女」の5本です。冬アニメの中で、2クール作品ではありますが「宇宙をかける少女」を振り返ってみたいと思います。


1.「第9話」の以前と以降

振り返るのにいきなり9話の話から入るのも何ですが、番外編の9話は物語の区切りの一つになっています。9話以前のストーリーがそらかけの第一部で、9話以降が第二部ですね。第一部では「レオパルドのパーツ集め」を中心にストーリーが進行していて、パーツ集めを通じて秋葉さんとレオパルド、秋葉さんとほのかさん、秋葉さんといつきさんの交流が行われてきました。第一部から第二部にかけての最大の変化は、秋葉さん・いつきさん・ほのかさんが互いに「友達」と認識したことです。このことをまず念頭に置いておきましょう。


2.3人のヒロインを中心とする人間関係

宇宙をかける少女では序盤から多数のキャラクターが登場し、さらに毎回と言っていいほど新キャラクターが登場して私たちを驚かせてきました。まず最初に3人のヒロインを基点として人間関係を整理してみましょう。
主役の3人の秋葉さん・ほのかさん・いつきさん。たったこの3人だけ抽出して考えても、2:1にグループ分けができることに気付きますね。すなわち「秋葉さんとほのかさん」と「いつきさん」の2つに分けることができます。秋葉さんとほのかさんは「獅子堂評議会」「レオパルド」に関係した人間ですが、いつきさんはそれらとはまったく関係のない個人の目的意識で行動しています。いつきさんは、主役3人の中で一人だけ仲間はずれなのです。
振り返ってみると、いつきさんはいつも集団の中でアウェイな立場にいました。ICPの中で怪奇課は「キワモノ」扱いされる存在でしたし、第3話では学校に潜入して目立っていましたし、第8話ではレオパルドに面会した獅子堂評議会の人たちに一人だけ紛れ込んでいましたが、彼女の話にはまともに取り合ってもらえませんでした。このような過酷な状況にもめげずにいつきさんは自分の目的に向かって邁進していて、それがいつきさんの魅力の一つだと思います。
いつきさんの周囲に居る人間は主にニーナさんとウルだけでしたが、いつきさんは秋葉さんを「友達」と呼ぶ(第12話)くらい第一部を通じて仲良くなりました。まあそこに至るまでの部分の描写はちょっと足りてないと思うんですけど。
一方でいつきさんが追いかけている「テラ・アブダクション」に関する手がかりは、第二部に入って徐々に集まってきています。第一部で得た手がかりはテラ・アブダクションにネルヴァルが関係しているという程度でしたが、第13話では実際にテラ・アブダクションに遭遇しています。


秋葉さんとほのかさんは同じグループに分類しましたが、まず2人の関係を調べて、そのあとで2人の周囲の人間関係について考えてみましょう。
二人の出会いは、1話のラストでほのかさんが秋葉さんに向けて黄金銃を撃ったところでした。ほのかさんはいつもレオパルドとセットで、秋葉さんと一緒にパーツ集め…というのを主軸にストーリーが進んでいました。二人の関係は実は第一部と第二部で大きく変わっていて、第一部ではレオパルドとセットでしたが、第二部ではレオパルドから独立した存在として秋葉さんと交流しています。第一部で彼女たちが回収したパーツは、ゴールデンオーブ(第3話)、陽電子マトリクス(第4話)、ゴールデンオーブウォーマー(第7話)、反物質炉の冷却装置(第8話、ちょっと毛色が違いますが)の4つですが、例えば4話冒頭で何か大きなパーツを盗み出していたり、他にもいろいろと集めたんでしょうかね。二人のパーツ集めといつきさんも常にセットでしたが、最初の2つではICPとしてパーツ集めを妨害し、後半の2つでは自分の目的のために協力しています。第二部に入ってレオパルドがコロニーを放棄して彼女たちが集めたパーツは塵になりましたけど、パーツ集めを通じて秋葉さんとほのかさん、いつきさんを交流させるのが主眼ですから、それでいいのです。
秋葉さんとほのかさんの周囲に居る人間は大きく分けて「獅子堂評議会」と「ネルヴァリスト」です。他にも「スール学園」とか、いつきさんサイドに「ICP」とかがあったりしますが、あまり本筋ではないっぽいので割愛しましょう。「獅子堂評議会」の主なメンバーは風音さん・高嶺さん・桜さん・エルさん・エミリオさんと元老院の3人と言ったところですね。いちおう彼女たちとネルヴァルの戦いを描くのが主題のひとつのはずですが、第12話でカークウッドが占領されたあとどれくらいのメンバーが生き残っているか分かりませんね。高嶺さんはネルヴァルに洗脳されてしまいましたけど(第12話)、一時的なものなのかずっと敵なのかまだ分かりませんね。OPの映像ではアレイダと高嶺さんが戦うシーンが印象的ですけど、新OPではアレイダと高嶺さんが一緒に戦う映像に切り替わっていたりして。
ネルヴァル側の人間は主にナミさん・アレイダ・クサンティッペ・ネルヴァル・ベンケイ・つつじさんといったところでしょうか。ナミさんがアレイダに見出される11話のシーンが印象的ですけど、秋葉さんとアレイダも「夢」を通じてつながりがあったことを忘れてはなりませんね。秋葉さんの夢が結局何だったのかは未だに明かされておらず、このアニメの主題のひとつでしょう。これは推測ですけど、第13話で秋葉さんの中に「迷い」があるとほのかさんが指摘しましたが、それと関係しているのかもしれません。アニメージュの4月号に秋葉さんとナミさんを比較した樋口先生のコメントが掲載されています。ナミさんは秋葉さんと同様に獅子堂のほかの姉妹にコンプレックスを抱いていますが、唯一下に見ていた秋葉さんが自分より上位に来たことが、ナミさんの黒い部分に火をつけたということです。以前ブログでも触れましたが、つつじさんはナミさんの引き立て役で、生徒会メンバーの中のつつじさんと、獅子堂ファミリーの中のナミさんの立場がおおよそ同じになっています。


3.人工知能と少女の交流

この作品のタイトル「宇宙をかける少女」という言葉の意味は第11話で明かされています。「傷つきやすく悩み深い」人工知能が自己投影するためのパートナー、それが「宇宙をかける少女」です。人工知能と少女のペアはベンケイとつつじさん、ネルヴァルとナミさん、レオパルドと秋葉さんの3組。「宇宙をかける少女」に選ばれる人物はおおよそ、心に何らかの闇を抱えていて、社会などで孤立しているような人のようです。それは元気溌剌に見える秋葉さんも例外ではありません。しかし秋葉さんは、現在では獅子堂評議会に必要とされていて、獅子堂陣営はネルヴァルのような「病んでいる」状態ではないのが救いですね。


4.「9話」のもたらした異変

さて、以前ブログでも触れましたが、9話を境に人間関係に変化が起きていますね。それはいくつかの立場の「交換」…いつきさんとブーゲンビリア・ミンタオ、ほのかさんと風音さん、の2つが顕著でしたが、他にもあるかもしれません。
特にほのかさんと風音さんの立場の交換が重要ですね。第10話で、風音さんが「レオパルドノミコン」を抱え、ほのかさんが獅子堂元老院に行くというシーンがありました。レオパルドのパーツは「集める」ものから「作り出す」ものへと変わり、ほのかさんはレオパルドの「付属品」ではなくなって、秋葉さんの「友達」として接点を持つようになりました。
いつきさんとブーミンの立場の交換は、やられ役としてのブーミンをそのまま引き継いだわけではなくて、いつきさんの事実上の「昇進」とブーミンの「降格」が同時に起こっただけとも考えられます。いつきさんの「昇進」は怪奇課全体の「昇進」にもつながったのでしょうか、第13話ではニーナさんがエリカとリリーの尊敬を集めていましたね。
さて、そもそも第9話とはなんだったのでしょう…と振り返るにはまだ早いですが、今後の展開が示唆されているというのは間違いないでしょう。つつじさんがネルヴァリストであるとか、生徒会長が小物だとかはすでに明らかになっていますが、たとえば風音さんと高嶺さんの死とか、QTを使いすぎると大変なことになるとか、そのへんもありうるかも。つつじさんの性格に言及しているという予想も半分くらい外れ、つつじさんは電波キャラになってしまいました。9話を点検するのはやはり最終話まで見ないと難しいでしょう。


5.秋葉さんの性格

最後にメインヒロインの秋葉さんに言及して終わりにしましょう。秋葉さんの性格があまりにもさっぱりとしているところが、このアニメの欠点でもあり、同時に秋葉さんの魅力でもあります。理由もなく流されるまま犯罪に加担していたり、ナミさんの嫌味とかも軽くスルーしたり、どんなヤバい状況になっても笑ってごまかせる秋葉さんを好きになれるかどうかに、この作品を好きになれるかどうかがかかっていると思います。秋葉さんが何を考えているか分からない、という指摘はごもっともですし、秋葉さんの行動にいろいろと理由づけはできるでしょうが、究極のところ秋葉さんの行動をすべて「性格」の一言で片づけてしまえばいいんでしょう。秋葉さんは犯罪行為だろうとお構いなく協力してしまう「鋼の無神経」なのです。
それゆえに、秋葉さんがブルーになる瞬間というのは貴重です。まず、秋葉さんの抱えていた獅子堂の姉妹に対するコンプレックスが秋葉さんをブルーにさせる一つの要因でありました。獅子堂の他の姉妹はたぐいまれな才能に恵まれているのに対して、自分には何もない。それがレオパルドに協力する秋葉さんの原動力だったわけです。第5話で秋葉さんとレオパルドが喧嘩し、一時的にレオパルドと関わるのをやめた時に、秋葉さんは改めて自分に何もないことを実感していました。秋葉さんのコンプレックスは第一部の主題のひとつだったわけですが、それも第8話で秋葉さんが獅子堂評議会の一員として承認されることで解決を見ました。では第二部以降で秋葉さんがブルーになる瞬間とはどんなきなんでしょうね。見ているこっちは限りなくブルーになるあの第12話でも「鋼の無神経」をいかんなく発揮していた秋葉さんは今のところ元気いっぱいに見えますが、心の中には「迷い」があるとのことです。


宇宙をかける少女」の前半の総括は以上です。「宇宙をかける少女」は他の春アニメと一緒にレビューを続けていきます。果たしてそらかけ以外の春アニメに興味を持てるのかちょっと心配ですけど、他の春アニメも楽しみにしています。