WHITE ALBUM 第12話 「縛ること。欺くこと。奪うこと。与えること。どれより辛いのが、待つこと」


前回冬弥くんは、理奈さんに水曜日のエコーズのバイトの後に食事に行かないかと誘われたのを、「弥生さんと予定があるから」と馬鹿正直に打ち明けたのでした。理奈さんは由綺からの手紙を破り捨てた弥生さんを敵視しているので、「あの人の誘いに乗ってはダメ」「危険すぎる」と警告します。ここで理奈さんは、冬弥くんが由綺以外の女の子と親しくなることを嫌がっているというよりは、特定の個人・「危険な」弥生さんに冬弥くんが引き寄せられていくのを恐れているようですね。「参加することはできるわよね」と言ってデートに誘ったのも、理奈さん個人の気持ちとも取れますが、冬弥くんを弥生さんから引き離すために誘ったとも取れるでしょう。「弥生さんは由綺以外愛せない人」と理奈さんの言葉を受けて、「俺は果して…」由綺以外を愛せる人なのだろうか、と冬弥くんは考えています。理奈さんや弥生さんを通じてこの問いを考えていくのが、今回の挿話の大きな流れになっています。


十二月十七日(水)。変装をした理奈さんがエコーズにやってきて、そのまま隠し部屋の方に向かいます。弥生さんを捨てて理奈さんを選ぶなら、隠し部屋の方に来なさいということですね。隠し部屋の薄暗い天井を見ていると、「もう一度」と言いながら理奈さんの右手が挙がってきそうな気がしてきますが、画面の上の方から降りてきたのは腕時計をはめた左手。PM11:35。今回何よりもつらい「待つこと」を経験した1人目の理奈さんは、待ち人が来ないことを悟ります。
冬弥くんは「先約」を優先して弥生さんと会っていました。この日冬弥くんは積極的に弥生さんを部屋に連れ込んで、「篠塚さん。由綺の代わりは無理でも、なれるものがあるよ」と言って弥生さんを今日の女神認定し、ベッドに押し倒します。


12月18日(木)。本日の天気は…まで映されたところで画面が変わって、土砂降りの中ランニングをする理奈さんと冬弥くんの姿が映されます。歌の練習だけじゃなくて、ランニングのような基礎体力作りみたいなのも日頃からやるんですかね。理奈さんは追いかけてくる冬弥くんを振り切るかのように雨の中全力で走って、芝生の上に倒れ込みます。
冬弥くんは理奈さんに呼び出されて、由綺からの手紙を理奈さんの口から聞かされます。およそ3分にもなる長いモノローグですが、映像はほぼ理奈さんの後ろ姿を映すだけになっています。
冬弥くんが入室してから理奈さんが語り終えるまでの間、理奈さんは微動だにせず、またその表情はいっさい映されません(一瞬、目元だけ映りましたが)。それはその口から語られる言葉が理奈さんのものではなくて、由綺の言葉をそのまま語っているからです。理奈さんが動いてしまっては、理奈さんの身振り手振りが表すもの・理奈さん自身の感情が由綺の言葉の中に紛れ込んでしまうことになるので、理奈さんは全く動かないのですね。由綺からの手紙を読み終えた後、泣きだした冬弥くんを理奈さんは振り返り、悲しそうな表情を見せて何事か言葉を発した後、すぐに表情を隠して、冬弥くんをクビにします。表情を伏せたということはこれは理奈さん自身の言葉ではないので、クビをした理由は本心ではなくて、冬弥くんを由綺のコンサートに行かせるために取り計らったのでしょう。前々回「由綺の本当の気持ちが分からない」と言って泣いていた冬弥くんですが、理奈さんの口を通じて由綺の気持ちを知ったことで、由綺に連絡をとってみる気になり、由綺の家に留守電を入れます。


冬弥くんは由綺のコンサートのチケットを取ろうとしますが、すでに満席で取れません。しかし、マナさん・美咲さん・はるかさんが取り計らってくれて、冬弥くんは結局3枚もチケットを手にすることになります。
冬弥くんが最初に受け取ったチケットはマナさんからのもの。マナさんは冬弥くんの愚痴を家庭教師の時間(12月19日)に聞かされ、そのあと雨でもかまわずツーリングに誘いに来たはるかさんに、冬弥くんがチケットを持ってないことを伝えます。マナさんはとりあえずはるかさんは由綺じゃないと認めたようですが、相変わらず冬弥くんの話をすべて嘘だと思っているようです。…前回は気づかなかったんですけど、マナさんの部屋のカレンダーは明らかにおかしいですね。12月とありますが、これは1986年の11月のカレンダー。作中では実際の1986年のカレンダー通りの日付で進んでいるので、これはたぶんミスでしょう。マナさんは今回母親だと判明した神埼社長にかけあってチケットを入手し、12月21日、電話で冬弥くんをたたき起こして朝霧台駅の改札に呼びつけ、チケットを手渡します。
美咲さんから受け取ったチケットは、もともと美咲さんが行くためにあったチケットなのでしょう。(おそらく19日の夜に)冬弥くんに電話して、冬弥くんがチケットを持っていないことを知った美咲さんは、自分のチケットを冬弥くんに譲ったのでしょうね。美咲さんがコンサートに行かないと聞かされて、彰さんも自分のチケットを破り、24日は二人で別の場所にデートに行くことになりました。最後にはるかさんが冬弥くんの自宅に投函していったチケットもたぶんはるかさん自身のチケットですかね。


十二月二十二日(月)。二人で歩いていた美咲さんと彰さんのところに、木陰から田丸君が現れます。田丸君は「謝ろうと思ってきた」と言って近づいてきて、「(美咲さんは)男を食い物にする、鬼女だ」と言って目つきを変え、美咲さんの作った小道具のナイフで美咲さんを刺し、走って逃げて行きます。ところが美咲さんがたまたま懐に持っていた「ブラウニング詩集」が盾になって、ナイフは美咲さんには刺さらずに済みました。彰さんは冬弥くんと美咲さんのつながりの象徴だったブラウニング詩集が美咲さんを守ったということで、狂気じみた笑いをします。
十二月二十三日(火)。エコーズのマスターは一言もしゃべらないので、どういう経緯で冬弥くんを殴ったのかは、弥生さん絡みということしか分かりませんね。弥生さんと車の中で、「俺が好きなのは、由綺だけだ」と、アバンで発した問いに答えを出しています…が、弥生さんとキスをしながらなのですっきりとしない。
12月24日になり、理奈さんのコンサート、そして由綺のコンサートの当日がやってきました。チケットをくれたはるかさん・マナさん・美咲さんの言葉を思い返しながら、冬弥くんはコンサートの「夕凪公会堂」に足を運びます。「これが今の本当の由綺」…公会堂に詰めかけた大勢の観客を見て、由綺がアイドルだということを実感しています。


「俺が好きなのは由綺だけ」で、弥生さん理奈さんその他大勢はあくまで「女神」というのが今回冬弥の出した結論ですね。キスをしようとベッドに押し倒そうと、冬弥くんのなかで弥生さんは「女神」…と。次回はいよいよ1クール目の最終回ですね。期待しています。