WHITE ALBUM 第8話 「時間がない時ほど、多くの事ができる。やってしまう。もちろん、恋だって」

前回冬弥くんは英二さんと理奈さんに録音スタジオに連れてこられて、「桁の違う」理奈さんの歌を聴かされたのでした。我々は前回と同様に「桁の違う」歌は聴くことができませんが、理奈さんは歌いなおすべき個所なども自分で把握していて、英二さんは何も指示を出すまでもないことからも、「桁が違う」ということがわかりますね。理奈さんの歌は聴くことができませんが、由綺の歌の完成テイクでない方は我々も聴くことができます。それは歌手としての歌ではなくて、「いつもの由綺」がそのまま表れているからです。比較の対象になることを前提とした「歌手の歌」においては、「より上手い歌」「桁が違う歌」などはとうてい言葉や文字でしか表現できませんが、「上手いか下手かもわからない」いつもの由綺としての歌は、そのまま歌として表現できるということですね。
英二さんは「いつもの由綺」の歌を心地よく聞いていますが、冬弥くんはたまらなくなって部屋から飛び出してしまいます。二人は一見対照的ですけれども、後の理奈さんのセリフによれば、英二さんは「由綺の歌を聴くと、胸がドキドキして息苦しくなる」そうですから、二人の由綺の歌に対して感ずることは同じですね。「英二さんの言いたかったことは、分かります」とありますが、英二さんが冬弥くんに「伝えたこと」というのはつまり、由綺は理奈さんに比べてこんなに歌が下手なのだから、もっと練習を積まなければなりませんよ、ということですね。ところが理奈さんより歌の下手な由綺のほうにより「入れ込む」のはおかしなことで、冬弥くんは理奈さんに対して、「理奈ちゃんでしょ、緒方プロの一押しは!」と反論します。そしてその疑問に対する答えが理奈さんの口から紡ぎだされるところで、ちょうど場面がはるかさんのところに切り替わります。


はるかさんのほうは冬弥くんの家からトボトボと帰るところで、人気のない路地で暴漢に絡まれます。そこに観月マナさんが空気を読まずに「また会っちゃった〜。奇遇だね〜」と大声で闖入してきます。マナさんとはるかさんが会ったのは前回肩をぶつけたのが初めてだったと思うので、これははるかさんを暴漢から助けるために現れたと考えるしかないか。マナさんは大声で騒ぎたてた挙句に、あらん限りの声を出して悲鳴を上げ、暴漢たちは逃走しています。普通に逃げ出せば良かったと思うのですが、どういうわけか最後に「慰謝料だ」とか言ってはるかさんの胸を触っていくのはとても不自然な気がします。はるかさんは緊張の糸が切れてそのまま地面に倒れ込みます。


場面が再び戻って、理奈さんが緒方英二という人物について語り始めます。長いモノローグを要約すると、英二さんは歌手として完成してしまった自分に興味を失い、妹の理奈さんを育てて、「線香花火のように、一瞬一瞬姿を全く変える」ところに興味を示していたが、理奈さんもたった2年で完成してしまい興味を失って、現在は由綺を育成することに傾注している。英二さんは由綺を育てる過程に興味があるのであって、完成してしまった理奈さんに興味はないから、由綺の方により「入れ込んでいる」わけですね。
「ねえ、今度は藤井君のこと、聞いていい?」と理奈さんが冬弥くんに振り向いて喋ったところから、話題が由綺の話から、冬弥くんと理奈さん二人の話に切り替わります。理奈さんが「(由綺のことを)羨ましくなんか、ないよ」と言ったところから、カメラが冬弥くんの顔を映さなくなります。理奈さんの顔と冬弥くんの姿を交互に映しますが、冬弥くんの目のところだけはどうしても映しませんね。このせいで、冬弥くんが「理奈さんが自分に興味を示している」と明確に知り、返答に窮しているとは分かりながらも、どういう反応をしているのかは、我々に分からなくなっていますね。そして「帰ろっか?」と理奈さんに言われて、今まで返答に窮していた冬弥くんが我にかえって返事を返し、理奈さんから連絡先を受け取るところで再び顔が映されることになります。


一方、暴漢から解放されたはるかさんとマナさんは二人の「お兄ちゃん」についての話をしています。これは冬弥くんですが、二人はもちろん自分たちが指す人物が同一だとは思いもしません。マナさんが「お兄ちゃん」が大学に合格するまでのエピソードを紹介したところではるかさんは感づきます。一方マナさんのほうははるかさんが「冬弥」の名前を出すところではどういうわけか既に消えてしまっているので、彼女がそれに気づいたかどうかは分かりませんね。


「美咲さんは、観月マナじゃない。誤解は一瞬で解けた」
マナさんは前回「浮気もん!」と冬弥くんを罵ったわけですけども、美咲さんは理奈さんと冬弥くんの関係を浮気ではないと理解してくれたわけですね。その誤解を生んだ原因は、美咲さんが理奈さんの顔を知らなかったから、と。
弥生さんのほうは新たな伏線が提示されます。ひらがなで「しのづかやよいさま」と書かれた封筒が何通も弥生さんのデスクの上に置かれていて、弥生さんはそれをすべてゴミ箱に捨てます。この封筒の差出人は誰なのか。そして弥生さんに電話をかけてきた人物は誰なのか。弥生さんが電話を置くのに合わせて由綺が電話を置くシーンに切り替わりますから、一瞬電話をかけたのが由綺ではないかとミスリードされますが、由綺が電話をかけたのはセリフから冬弥くんにだとわかりますね。


Bパート冒頭では小鳥の囀る森の中のシーンが映されます。この森は何度か回想の中に由綺やはるかさんと一緒に出てきたと思いますが、今回映るのははるかさんと、おそらく昔の冬弥くん、そして観月マナ。「うそつき」というマナさんのセリフは、冬弥くんを兄と偽ったことを言っているのでしょう。このシーンは回想ではなく、冬弥くんの家に窓から忍び込んでベッドで眠っていたはるかさんの夢でした。冬弥くんのはるかさんに対する態度は相変わらず冷たくて、「(美咲さんとの作業を)おまえは手伝わなくていいからな」とか「座敷童って信じる?」「信じない」といった感じです。


日めくりカレンダーの11月15日が映されたのを皮切りに、瞬く間に時間が流れていって11月23日になります。テレビで映されている火山の模様はちょっと気になって調べてみたら、実際の出来事に則っているようで、1986年の11月15日に伊豆大島三原山が噴火し、さらに11月21日に大規模な割れ目噴火が発生し、島民全員が島外避難する、といった出来事があったそうです。 (ちなみに当時まだ私は生まれていません。)この間冬弥くんは美咲さんとの作業に徹して、弥生さんと会うこともなく、由綺と電話で話をすることもなく、またマナさんの家庭教師の仕事では舟を漕いでいます。学園祭間近となったところで、他のヒロインとの接点を完全に絶って、美咲さんとの作業に打ち込んでいます。サブタイトルの「時間がないとき」というのは学園祭準備で忙しいこの辺りからの時期を指していますね。
23日になって、由綺から冬弥くんの実家に電話がかかってきたところを美咲さんが取ります。この電話の中で美咲さんは、冬弥くんと由綺が電話の中で幾度となく繰り返してきた「嘘」をつきますね。美咲さんも由綺に対して後ろめたいものを感じてしまったのでしょう。由綺が「お父さん、お悪いの?」と聞いたのは、第6話のところで冬弥くんが「親父の持病が…」などと嘘をついてしまったからですね。美咲さんは寝たふりをしてそれを聞いていたのでこのように対応できたわけです。
その間冬弥くんははるかさんと一緒に、11月26日が誕生日だという理奈さんへのプレゼントを買いに来ています。その様子を観月マナさんが6話のときと同じように見ていて、今度ははるかさんを由綺だと勘違いしてしまいます。


理奈さんの誕生日の11月26日がやってきます。由綺は冬弥くんに日課のように電話をかけますが、冬弥は相変わらず出ず、収録に向かいます。美咲さんは夜を徹しての作業だったのか眠っていて、はるかさんとマナさんは「ハッピーバースデイ」の歌をどこかにいる理奈さんに向けて歌っています。
理奈さんの収録に誕生日プレゼントを持ってかけつけた冬弥くんは、「偶然」そこで由綺と会うことになります。冬弥くんは由綺と長いこと話をせずにいて、久しぶりに由綺と会ったところは理奈さんにプレゼントをあげる瞬間だったわけです。冬弥くんは浮気現場を見られたかのような混乱に陥ってしまって、まともに言葉を発することはできません。ですがまだ冬弥くんと理奈さんの関係は浮気と呼べるほどのものではないので、冬弥くんがなぜこのような混乱に陥ったのかはあんまりよく分からないんですが、冬弥くんの心情は次回もっと明確に描写されることでしょう。
今回「時間がない」ゆえに「多くの恋をしてしまう」冬弥くんは、弥生さんの「お仕置き」も拒むことができず、受け入れてしまいます。前回までは由綺以外の明確な「ヒロイン」が毎回1人だけ居たのに対して、今回「多くの恋をする」冬弥くんは、美咲さんもはるかさんも弥生さんも等しく受け入れていますね。


理奈さんと英二さんの「宣戦布告」なる意味は今回もまだ明かされませんでしたが、冬弥くんと由綺を出会わせたのが「偶然」でないとすれば、2人をを破局されるのがこの兄妹の目的なのでしょうか。はるかさんはもうちょっと取り上げるのかと思いましたが、他のヒロインとあまり変わらない扱いでしたね。学園祭が11月29日ということでしたので、次週は学園祭に関する美咲さんの話題が中心になるんでしょうか。